ジョーがセレビアの雷から立ち直り、少ししてから湖畔に流れる空気が変わった。

 といってもその微妙な変化に気づいたのはジョーとセレビアだけだった。

「来ましたね」

「えぇ」

 ジョーは自然な笑みの中にも、隙を見せず、セレビアは完全に臨戦態勢へと移行して、その空気が変わった要因となるものへと気を配った。

「ジョーさん? セレビアさん?」

 二人の只ならぬ様子に空兎が一瞬と惑うも、ついに時が来たんだと悟り、真剣な面持ちとなる。仙太の顔にも緊張感が走り、マリィも一歩前に出て、空兎の前に立った。

「クヲンさん……」

 マリィが小さく唇を動かす。


 カラスよりも大きな羽根が、まるで木の葉のようにヒラヒラと舞い散る。


 黒き翼を持つ天使―――悪魔のキスによって堕ちた天使が羽ばたきながら空から降りてきた。


「………待たせたな」

 挨拶代わりといった風に、クヲンは着地と同時に空兎たちに言い放った。

「あなた、一人かしら?」

 いつでも魔法が発動できる体勢のセレビアが訊くと、「いえ」と間髪入れず返ってきた声があった。

 それはジョーだった。

「残念ながらすでに森の中に何人かいらっしゃいます。ヒシヒシと感じますよ」

「そう………だと思ったわ……」

 ジョーの答えは予想通りといった感じのセレビア。特に悲観した様子はない。