彼女の背中がそれを物語っていた。
 そして、彼女を止める者も──


 いや


 一人いた。


「待って!」

 空兎が叫び、そして駆ける。しかし、それはセレビアの前ではなく、二階、自分の部屋へとだった。


 ダダダダダーーーっ!


 という豪快に階段を駆け上がる地響きが轟き、その後で二階が若干、騒がしくなる。

(何やってんだ?)

 仙太が嫌な予感に表情を強張らせていると、空兎が転びそうな勢いで階段から駆け降りてきた。

 その手に持っているものを見て、仙太はハッと気付いた。

 空兎が息を切らしながら、手に握っているもの───トンガリハットをセレビアに差し出した。

「これは………!」

 セレビアの目が見開く。その表情を見て、空兎は確信した。

「やっぱり、これ、セレビアさんのだったんだね………クヲンくんは偽の証拠みたいなこと言ってたけどさ」

 セレビアは空兎からハットを受け取ると、じっくりとそれを確かめた。それから穴のところに手を入れて何かを探る。

 中から取り出したのは箒だった。

「……間違いないわ。私のね」

 捕われてから組織に奪われていたかと思われていたハットが意外な場所で見つかり、セレビアは驚きの表情となり、空兎の表情はパァッと晴れた。

「全く、何を考えてるのかしらね、あの堕天使くんは……」

 ハットを被りながらセレビアはぼやく。そして空兎も呟く。

「ホント………分かんないね」

 だが、どこか安心した感じがその声の中にあった。

 偽といいながら、実は本物。クヲンの考えが全く分からない空兎だが、その分、確かめたい気持ちが強くなった。

 だから、セレビアの目を見て頼み込む。

「セレビアさん、アイツらの所に行くんなら、お願い! アタシに協力して欲しいの!」

「協力? 何の?」

「“奇跡”を叶えるために決まってるじゃん!」