「一度しか起こせない“奇跡”で皆が笑えることなんて、できるのかなぁ? アタ
シ、バカだから分かんないや。せっちん、考えてよ」

「なんで僕が?」

「だって、せっちんは空兎の愉快な冒険隊の作戦参謀じゃん!」

 勝手だなぁ、と思いつつも真面目に考える仙太。だが、そんな都合の良い案な
どすぐに思いつくものでもない。本当にあるのかも怪しいものだ。

 仙太は、素直な気持ちを口にした。

「……ひょっとしたら何かあるかもしれないけど、僕には分かんないよ、そんな
こと……」

「頼りになんないなぁ」

「悪かったなぁ」

「でも──」

 急に空兎の声のトーンが上がったかと思うと、ずれていた互いの顔が再び合わ
さる。

 その時の空兎の表情は、とびっきりの笑顔だった。

「ありがと!」

 そう言って飛び退くと、空兎は食器洗いを再開した。

 今の言葉のどこに感謝される部分があったのか皆目検討がつかない仙太は、し
ばらく呆然としながら己の頬に触れ、あの温もりを思い出す。

「……………」

 改めて赤面する仙太だった。


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 空兎と仙太が食器洗いを終えて居間に戻った頃を見計らったからったかのよう
にセレビアが立ち上がって告げる。

「怪我も大分回復したし、そろそろ行くわ」

「どちらへ?」

 間髪入れず尋ねたのはジョーだった。セレビアに踵を返す間すら与えなかった。

「奴らのアジトよ。“本”と“鍵”を奪還するの」

「しかし、あの封印されたページというものは解放できないのではないですか?


「えぇ、でも、故郷に帰ればマレストが残した資料か何かあるかもしれない。そ
れに賭けるわ」

 それだけ言い放つとセレビアは一同に背を向け、玄関へと歩く。


 私は、私の道を行く。