空兎の熱。

 仙太の鼓動。

 互いをそれらを感じながら、空兎は仙太の耳に囁く。

「ねぇ、せっちん。アタシね、クヲンくんが好きだった………ううん、今も好き。一目惚れっていうのかな? 初めて出逢った時から気になってさ、それがだんだん強くなって………」

 仙太にとってそれは聞きたくことだったが、状況が逃げることを許さなかった。

「クヲンくんもアタシが好きって言ってくれて、凄く嬉しかったんだけど………あれもキィのための芝居だったんだよね」

「…………」

「クヲンくんの好きな人って、多分、マリィだよ。アタシより綺麗だし、可愛いし………クヲンくんが今も頑張っているのはマリィのためだもん。なのにアタシは惨めにまだ好きでいる………メチャクチャ裏切られて、もう信用できなくなったのに、やっぱり好き……変だよね?」

「………空兎らしいな」

「それ、バカってこと?」

「いや、実は根っからの寂しがり屋だってこと」

 それは、仙太なりに見た空兎の本当の性格だった。

「何度裏切られても、突き放されても、心の何処かで相手のことを信じている。そうでもしていないと、寂しくて死んじゃいそうだから、そうやって無理矢理でも心を強く保ってるんだ。………兎みたいだな」

 仙太のその言葉が的を得ているのかどうか、空兎はギュッと仙太の体をきつく締めた。

 しかし、それは普段の空兎からは考えられないくらいか弱いもので、仙太は特に抵抗はしなかった。

 空兎にとっても、それは細やかな抵抗に過ぎなかったのだ。

 何度も「バカ」を心の中で呟いた空兎はやがて、口に笑みを灯して呟く。

「ねぇ? どうしたら、皆、笑えるかな?」

 それは、どこか祈りを捧げているような口調だった。