見つめ合う空兎と仙太。

 これだけ近くで見つめられているのに、不思議と仙太の胸の鼓動は穏やかだった。後頭部の痛みのせいかもしれない。

 本当に不思議なくらい、平静だった。

「せっちんのせいだからね………」

 ポツリと溢れた空兎の言葉に仙太は意表を突かれた。

「僕の?」

「せっちんがあの時言ってくれた言葉のせいでさ、アタシ、つい嬉しくなっちゃって……髪を無茶苦茶にされた仕返しなんてどうでもよくなったんだよ………」

 泣き笑い、というのだろうか。今の空兎はそんな顔をしている。

 相変わらず、“仕返し”云々の件はよく分からない仙太だったが、空兎の言葉の端々には推察できるものがあり、それは触れてはならないものだということが悟られた。

「お陰で、何のためにお父さんに内緒で習ってたか分かんないじゃん! それにやっていくうちに楽しくなってきて、テコンドーで仕返しってのも嫌になってきてさ………せっちんのせいでアタシの計画は丸つぶれだよ、どうしてくれんのよ?」

「いや、どうしてくれんのよって言われても……どうしていいのやら?」

 色々な意味で返答に困る仙太。途端に、空兎の表情がイタズラっぽく変わる。

「じゃあ、そこ動かないで! 今からお仕置きしてあげる」

「いや、意味分かんないから」

「うっさい! アタシを喜ばせた罰よ! 黙って受けなさい………」

 言葉を流していきながら、空兎はゆっくりと唇を仙太の頬に当てた。

「……………え?」

 仙太が驚き、小さな声を上げときにはもう、空兎の唇は離れており、完全に仙太に全体量を預けていた。

「………腕、疲れたから」

「あ、う、うん………」

 表情は伺えなかったが、声から空兎の照れを感じた仙太はそう返事して受け入れた。