どういう風の吹き回しか知らないが、内心仙太は助かっていた。

 正直、一人で五人分の食器類を洗うのはさすがにしんどいと思っていたからだ。

 マリィやジョーあたりが進言してきたら素直に甘えるつもりだったが、意外にもそれが空兎だった。

 腕前はあまり信用ならないが、身内なので気兼ねがないので、断る理由は何もなかった。


 だが、しかし、どうだろう───


 こうして台所で二人きり、肩を並べて黙々と食器を洗っていると、次第に仙太は妙な気分になってきた。

 空兎の手付きが普段の性格からは想像もつかないほどに丁寧なせいだろうか。免許皆伝とまではいかないだろうが、そこそこ手際よく洗えているように仙太は見えた。


 蛇口から流れる水の音と皿が食器乾燥機に置かれる音だけが聞こえて、仙太は何故か気まずくなる。

 どういうことだろう、と一人悩んでいると唐突に空兎が口を開いてきた。

 その口調があまりにも然り気無くといった風だったので、仙太は思わず耳を疑った。

「アタシさ、テコンドーやってたんだよね」

「え?」

「ほら、せっちん、前に訊いたじゃん。アタシが何か格闘技やってたのかって………だから、テコンドー!」

 今さらかよ、と仙太は突っ込むことすらできなかった。言った本人ですら忘れていたからだ。

(よく……覚えていたな)

 それが素直な感想だった。そして急に興味が沸き、その理由が訊きたくなった。

「何でまたテコンドーなんか?」

「さぁ、何ででしょう?」

「く、クイズ形式?」

「当たっても景品ないけどね♪」

 楽しそうな空兎のペースに乗せられたのか、真面目に考え出す仙太。空兎が鼻歌を口ずさみ、仙太のシンキングタイムを演出した。

「えっと、強くなりたかったから?」

「ん〜、じゃあ、なんで強くなりたかったかったと思う?」

「それ、何か堂々巡りにならないか?」

「んふふ、降参かにゃ?」

 語尾に倣って猫のように笑う空兎。小馬鹿にされているようだったが、この猫笑みの前では何を答えても正解しそうにもないので、仙太は余計な心労をすり減らさない最善の選択をした。

「………分かんないよ降参だ」