慌てて仙太が止めようとしたところで、フローリングの床が仙太の足元を滑らせ、マリィを押し倒してしまう。

 豪快な音が家中に響き渡り、自然と空兎を呼び寄せた。

「せっちん! 何!? 今の音────」

 倒れている二人の姿を見て、空兎が凍りつく。そんな空兎を見て、仙太も凍りついた。

 マリィはというと、状況が呑み込めていないかのように、ぽかんとしていた。

 空兎の表情がだんだんと怒りへと変わっていく。

「なぁ〜にぃ、やってんのぉぉ!! せっちんんん!爽やかな朝っぱらからぁぁぁあっ!!」

「誤解だ! ありがちな誤解だ!!」

 懸命に弁解する仙太とほぼ同時に、玄関のドアが開かれた。

 三人の視線がそこへ集まる。

「あ、すみません。何か大きな音が聞こえてきたもので気になって勝手に開けてしまいまし───あ……」

「あら、朝からお盛んね仙ちゃん♪」

 玄関の前で、ジョーは反応に困り、彼におんぶされているセレビアは薄ら笑いを浮かべた。

 空兎がそんな二人に向けて思わず声を上げた。

「ジョーさん! セレビアさん!」

 感激のあまり、倒れている二人を飛び越え、ジョーへと抱き付く。その様子から空兎がどれほどジョーとセレビアのことを気にかけていたかよく伺える。

 勢いに押されそうになりながらも、しっかりと受け止めたジョーは、まるで妹を見るような優しい目で空兎に微笑みかけた。

「ご心配かけてすみません」

「……大げさね」

 少し照れがありながらも、セレビアも微笑みを浮かべていた。

 それからセレビアは、倒れている二人に視線を移してからかう。

「それで仙ちゃんは朝から何ちちくりあってるのかしら?」

「ちょっ! ちちくりあうって、そんな!!」

「「ちちくりあう?」」

「いやぁ、懐かしい言葉ですね」

「私が年増だって言いたいの!? ヒーローくん!!」

 からかわれて慌てふためく仙太。

 セレビアの言った意味が分からない様子の空兎とマリィ。

 感慨無量になるジョーに、勝手に勘違いして怒鳴るセレビア。


 甲斐浜家の朝は近所迷惑になるくらい賑やかになった。