空兎とマリィが風呂に入っている最中、仙太は沙恵美からの電話を受け取っていた。

『今夜、帰るからね』

 約一週間ぶりに聞いた母親の声は、相変わらず優しく聞こえた。連絡がとれなかった間の事を咎められる心配は仙太の杞憂に終わった。

 電話が切れるとほぼ同時に、風呂場から空兎とマリィがTシャツに短パンという、ラフな格好で出てきた。

「あ………」

 仙太は空兎と目が合ったが、どう話しかけていいか躊躇してしまった。

 それは、空兎も同じ気持ちのようで、気まずそうに視線を逸らして頬をかいてる。

 そんな中、


 ぐ〜〜〜


 という、なんとも間の抜けた腹の虫が鳴いた。

 仙太の視線が空兎に突き刺さる。

「じ、ジロジロ見るなぁ! 仕方ないじゃん! 昨日から何も食べてないんだから!」

「いや、僕は何も言ってないんだけど……」

「言い訳は男らしくないわよ! せっちん!! 罰としてアタシの分のおかずの量は三倍以上だかんね!!」

 強引な照れ隠しだということは、赤くなった顔を見ればすぐにわかった。

 何か返そうかと思った仙太だったが、ここは素直に彼女の言い分に従った。

「わかったよ。もうちょっとでできるから、テレビでも見て、待ってなよ」

「うん!」

 空兎らしい満面の笑顔を、仙太は久しぶりに見た気がした。

 空兎はすぐに居間に走ると、素直にテレビを付けて朝食が来るのを待った。

 残った仙太とマリィは顔を見合せ小さく笑った。

「あの、ありがとうございます」

「いえ、私はただ空兎さんをお風呂に誘って、世間話をしただけです」

 仙太の礼に、マリィは微笑を浮かべて、大したことではないことのように応えた。

 それから仙太は台所へ、マリィは居間へと行こうとした矢先、突如としてインターホンが鳴った。

 朝早く、しかもここ数日の出来事から仙太の警戒心が自然と高まる。

「はぁい」

 しかし、警戒心の欠片もないマリィが出ようとする。

「わぁっ、まっ、待ってください!」