「私は、やっぱり不幸を撒き散らすことしかできない悪魔なんです。お世話になった、クヲンさんの力を奪い、そして、あなた達も結果として、巻き込んでしまいました………ごめんなさい」

 湯に顔がつかんばかりに頭を下げられ、空兎は困惑した。

 どう返していいか分からず、必死に言葉を探した。

 責める気は全くない。

 だから、どう返していいか分からなかった。

 散々頭を捻った挙げ句、空兎はふと思った疑問を口にした。

「な、名前!」

「………………はい?」

「名前! まだ訊いてないから! アタシは空兎!……………って、さっきからアタシの名前呼んでるじゃん!! なんで知ってるの!?」

「それは、仙太さんから聞きましたので………」

「あぁ、そうなんだ。とにかく名前! 教えて!」

 的外れな返しだが、マリィにとっては悪い気はしなかった。

 優しい微笑みを浮かべて、空兎の疑問に答える。

「マリィといいます」

「………マリィ、あと一つだけ訊かせて!」

「なんでしょう?」

 マリィの黒い瞳に見つめられ、空兎は息を呑んだ。

 意を決した後、上気した頬をさらに赤くして質問する。

「く、クヲンくんのこと、その………ら、ラブ?」

「らぶ?」

「す、好きかって訊いてるのっ!」

 空兎が叫んで数秒間。何も音がしない、静けさが訪れる。

 マリィは、精一杯の笑顔を空兎に返して答える。

「はい」

 同姓の空兎ですら、思わずドキッとしてしまった笑顔。

 その笑顔を長く見ていられなかったのか、空兎は湯船の中にズブズブと沈んでいった。