会話や彼の雰囲気からは一切、悪い人とは感じられない。
 しかし言っていることは突拍子もない。

(良い人なんだろうけど、変わった人だな)

 それがジョーに対しての仙太の印象だ。
 確かに、最近のヒーロー俳優のような爽やかさで、名前もヒーローっぽいが・・・・・・

(どうにも、朗らかというか、気弱というか……)

 強盗に意見したり、拳銃の盾になったりと、並々ならぬ勇気の持ち主ではあると思うが、最初の銃声で腰を抜かしたり、あの髭男に凄まれて、ペコペコ謝っていたりしてたのは、どうにもヒーローらしくない。

 そう思った仙太だが、それは自分の胸の中だけにしまっておいた。
 空兎の言う通り、身を挺して彼女を守った彼の姿は、紛れもないヒーローの姿だからだ。

 それから五分も経たない程で救急車が到着し、ジョーは“一応”病院に運ばれた。

 その後も事件の関係者は警察からアレコレと質問され、仙太と空兎が帰路につけたのは、もう夕方のことだった。

「うにゃ~~腹ペリ~~~」

 結局、昼食も摂れなかったので、空兎はうな垂れて、その足取りもフラついている。

「今日は“奇跡を起こせる宝”を探すどころか、散々な一日だったな・・・・・・ま、こうして僕たちが無事なのはある意味、奇跡かもしれないけど」

 そう言いながら仙太はふと、ある事を思い出し、空兎のほうを見た。

 朝、カバン類は一切、持たないまま出掛けた空兎が、一つだけ持っていたものがある。この一日の発端というべき、あの“奇跡の起こし方”という本だ。

 それが今、空兎の手には見当たらない。

「・・・・・・空兎、“本”は?」

 仙太は嫌な予感を醸しつつ尋ねると、空兎は一瞬、キョトンとした後、そのことを思い出し、だんだんと顔面を蒼白させた。

「コンビニのトイレに忘れてきたぁ!!」

 絶叫するなり、来た道を猛然と逆走していく空兎。
 仙太はこれまで吐かずに蓄えてい溜息をここで吐いた。