−我が障害を払うため、風よ、吹け−


 ジョー、セレビアを中心として風が吹き荒れる。

 セレビアの意図してのことか、風の強さは灰山とレンカの身動きを封じる程度のものだった。

 それを確認すると、セレビアは叫ぶ。

「ヒーローくん! 窓に向かって走って」

「はい!」

 迷うことなく、セレビアの指示に従うジョー。セレビアのいう窓はルミネの背後にある一つしかない。

 ジョーは、そこに向けて走った。その間も、セレビアは魔法を練る。

 緑色の光が淡く輝いた時、セレビアは心の中で師の顔を想い描いた。

(ごめんなさい………マレスト)

 セレビアは、風の魔法をルミネのデスク上ではなく、床に向けて発動した。


 ―風の泥棒(シーフ)よ、駆け抜けよ!−


 掌底のように突き出した手から発生した突風が床に落ちた眼鏡を拾い上げ、セレビアの手に戻す。

 それを決して離さないよう、胸に抱き締める。

 そして、終始眉一つ動かさず成り行きを見つめていたルミネとすれ違う瞬間───


 ジョー、セレビア、ルミネの目が交錯した。


 ジョーは、体を屈め窓を突き破った。


 三十階の空中に、二人の身が投げ出された。

「あ〜……さすがにちょっと、まずいですね」

 耳元に聞こえるジョーの声に、セレビアは頭痛を覚えた。

「安心なさい。ちゃんと考えてるわよ!」

 セレビアは再び風の魔法を唱える。それをタイミングを図って、激突する寸前、地面に向けて放つ。

 風がさながらクッションのような役割を果たし、二人を地面への衝突を回避させた。

「なるほど、助かりました」

「お互い様よ」

 風のクッションのお陰で、ジョーは悠々とアスファルトへと着地した。

 人が大勢いたその場所は、突然、空から人が降ってきた二人に注目が集まっていた。しかも、一人はお面を被った男である。

 怪しさ全開だ。

 今にも通報されそうな注目を一点に受けながら、ジョーは一目散に走り出した。