「お前……!?」

 「何故?」と言わんばかりに灰山の目が驚愕に見開かれている。

 どうやって扉を破壊したのかでも、どうやってあの状態のセレビアから風のように救出し、今、ルミネのデスクの上に立っているのかでもない。


 何故、お前が牢から出ている?


 と、いうことが灰山の最大の疑問点だった。

 そして、すぐに思い当たったのが、あの小生意気な堕天使である。

 灰山は舌打ちし、銃口をジョーに向けた。

「やめなさい。後ろはルミネ様よ」

 レンカが鋭く灰山を制す。今にも握っているナイフで刺さんばかりだ。灰山は、再び舌打ちをする。

 この二人のやり取りを見て、ジョーは察する。

「あぁ、すみません。机の上に立つのは行儀が悪いですよね」

「そうじゃなくて……あなたの後ろにいるのがこいつらのボスだから迂濶に手が出せないのよ………」

 腕の中のセレビアが呆れ口調で解説する。

 ジョーは、デスクから飛び降りると、ルミネへと振り返った。

「いやはや、失礼しました。つい、セレビアさんを助けようと無我夢中だったもので……本当に申し訳ありません」

「って、アンタ! 何、ご丁寧にお詫びしてるのよ!!」

「いや、こういうことはちゃんとしないと……」

「今がどういう状況かわかってるわけ!? 早く“鍵”と“本”を奪って脱出するわよ!」

 そうこう言い争っている間に、灰山の銃がジョーの頭に、レンカのナイフがセレビアの喉元に突きつけられた。

「確か、頭、撃ち抜かれたらさすがに死ぬんだったよな?」

「協力を拒むのなら、痴話喧嘩の続きは天国でなさい」

 灰山とレンカが、それぞれ告げ、ジョーとセレビアは互いに目を合わせた。

「全く……ちょっとでも期待した私が愚かだったわ」

「ははは……すみません」

「笑い事じゃないわよ………でも、ま……」

 その瞬間、セレビアの口元が愉悦に歪む。

(少しの魔法を練るだけの時間が稼げたから、許してあげる)

 セレビアの両手が淡い緑色の光を灯していることに、レンカが気付いたときには、すでに魔法は発動していた。