続いてレンカがしゃがみこみ、スーツのポケットからジャックナイフを取り出し、その銀光りする刃をセレビアの首筋に当てながら耳元で囁いた。

「ご心配なさらずとも、あなたが素直に封じられたページを解放してくだされば、すぐに治療をして差し上げます。ただ、抵抗をなさるのなら…………殺します」

 起伏のないその声が、本気であると示していた。

 だが、セレビアは、そんな灰山やレンカを睨み付けることも、苦痛に喘ぐこともせずに、歯を食いしばって痛みに耐え、顔から離れていった眼鏡を、ただ見つめていた。

(マレ……スト………)

 太股から流れる血と共にセレビアの意識がじわじわと薄れていき、“絶望”という二文字が脳裏に過る。

 激痛から眼鏡を見つめる視界がぼやけてくる。

 その代わり、耳に「何かが砕ける轟音」が響いた。

 直後、セレビアは自分が誰かに抱き上げられる感覚に見舞われた。

 そして、聞き覚えのある、爽やかな声。

「大丈夫ですか?」

 セレビアは自分の耳を疑いながらも、ぼやけた目に力をこめた。

 その声の主を確認したとき、セレビアは改めて思った。


 彼は、ヒーローなんだと。


 変身が出来なくても、ピンチの時には颯爽と現れて助けてくれる。


 お面を被った、ちょっと変わったヒーロー。


 緋上ジョーが、確かにセレビアの目に見えた。