セレビアの真に迫った声に、ルミネの目が開く。

「ついに自分の命をベットに出して、私を焦らすつもりか? 度胸は認めるが浅いな。それに、その選択には間違いがある」

「………間違い?」

「君の言葉が最初から偽りである場合、その二択にはなりえないのだよ」

 口元で組まれている指の隙間から覗く不敵な笑みが、どこか確信めいて告げていた。

「なるほどね……でも、私の言葉が嘘だという証明するものは何もない……困ったわね?」

「全くだよ」

 ルミネは組んだ指に隠れて苦笑した。そして、鋭い視線をセレビアに向け、提案する。

「ではこうしよう。これから君の枷を解く……“鍵”と“本”を奪い、ここから逃げたいのなら好きにすればいい」

「………何を企んでいるの?」

 言葉の中に何らかの含みと、それに伴う嫌な予感を感じたセレビアが問うと、ルミネは口角を上げた。

「なに、単純な話だよ。もし君がそうした場合、背後にいる灰山が即座に発砲することになるだろう。残念だが、我々の“神杯”への道のりは、君の言う延長戦とやらに突入というわけだ。だが、致し方ない。協力が得られないのなら………この場で殺すまでだよ」

 ルミネの本気の視線に射抜かれ、セレビアの全身に戦慄が走った。

「なに、心配することはないだろう。君に力が戻れば、灰山が撃つ前に“鍵”と“本”を奪うことなど、容易いことだろう。チャンスだとは思わないかね?」

(やられたわ………)

 セレビアは、内心で現状の不利に悟った。

 当初、セレビアは自分を『“鍵”を用いて“本”に封じられたページを解放できる』唯一の存在、つまりは、“奇跡の条件”の一つとしての価値を高めるため、命を盾にしてまで、ルミネとの会話の主導権を握り、枷を外させ、あわよくば“鍵”と“本”を手に入れてこの場から脱出というシナリオだった。

 しかし、ルミネがそれを全て見透かした。しかも、一見、暴挙ともとれるこの提案である。