扉の前でレンカがノックをする。

「ルミネ様、セレビア様をお連れしました」

(捕えている人間に「様」付けなんて………皮肉としか聞こえないわね)

 セレビアが内心で毒づいていると、重厚な扉が開き、ルミネの姿が視界に入った。

(あれが……この組織のボス………)

 椅子に悠然と腰掛けているその男を、セレビアは睨み付けた。

「あまり怖い顔はしないで欲しいな。君が本気を出せば、私に勝ち目はないからね」

 セレビアの睨みに気付いて、ルミネがそんな言葉を吐く。見下された気分になって、セレビアは気分を悪くした。

「白々しいわね。魔法が使えない今の私……無力よ」

「そう自分を卑下にするものではないよ。魔法は使えずとも、君にはその知識がある」

 そう言ってルミネは、セレビアに“鍵”と“本”を指す。

「例えば、この“本”の封印されたページ……“鍵”を使っての解除方法などを君は知っているのではないのかね?」

 そう問われ、セレビアは僅かに眉を上げた。肯定とも否定とも示していないが、彼女の返事を待たずにルミネが続ける。

「……この“本”の著者であり、封印を施し、“鍵”を作った魔法使い、マレスト=K=シャンクスの弟子である君ならば知っていても不思議ないと思うのだかね?」

「……………」

 ルミネの言葉に、セレビアはスッと目を細めて、表情をポーカーフェイスにした。

 そして、うっすらと口元に笑みを浮かべながら、艶やかな唇を開いた。

「えぇ、その通りよ。その“本”にかけられた封印は特別でね、“鍵”があっても、ある呪文で、“本”の鍵穴を顕現化させなきゃいけないの」

「ほう、それでその呪文はなんというのかね?」

「悪いけど、魔法を扱えない者では鍵穴を顕現化させることはできないわ。ま、私ならできるけどね」

 まるで挑発するかのようにウインクしてみせるセレビア。低く、押し殺すようにして、ルミネが吹き出した。

「ククク、その手には乗らないよセレビア女史。君はそう言って、我々にその枷を外させるよう仕向けている」

 ルミネがセレビアの両手を封じている枷を指した。