「よぅ、怪我は大丈夫かい?」

「お陰様で。まぁ、元々大した怪我ではありませんでしたから」

「いやいや、大した怪我だったつーの。まぁ、あんたがデタラメに丈夫なのは今に始まったことじゃねぇな」

 嫌味でも何でもなく、素直に感嘆するクヲン。

 今度は微笑を浮かべたジョーの方が尋ねてきた。

「それより、空兎ちゃんと仙太くんはどうしています?」

 その質問に、クヲンは返答に詰まった。

 不敵な笑みが一瞬にして真顔に戻る。

「どうかしましたか?」

 本人にその気はないのだろうが、急かされているような気がして、クヲンはまともな言い訳が思いつかないまま、質問という形で返す。

「泣かせてしまったって言ったら、あんたでも怒るかい?」

「事と次第によっては……」

 間髪入れないジョーの答えに、思わず笑いがこみ上げてくるクヲン。それを懸命に抑え込み、なんとか洩れないようにする。

 そして───

「そうか……怖ぇ」

 嘘偽りない本心を口にした。

 恐怖でこみ上げてきた笑いを必死で堪えながら………


$


 セレビアと灰山を乗せたエレベーターは地下から最上階へと一気に昇っていった。

 セレビア自身、抵抗する気は全くなかったが、灰山はエレベーターに乗っている間の一分弱。終始、セレビアの背に銃を突き付けていた。

 エレベーターが止まり、扉が開くと、待っていたかのようにルミネの秘書が立っていた。

「ようこそいらっしゃいました。セレビア=J=ダルク様」

 物腰低く女性秘書が出迎えると、セレビアが怪訝そうに目を細めた。

「あなた……誰?」

「失礼しました。わたくし、ルミネ=クロムネンボ様の秘書を務めさせていただいています、レンカ・仲里(なかざと)と申します」

「ふ〜ん」

 「外見はそうでもないけど、名前からしてハーフね」と、勝手に判断したセレビアは、すぐにその秘書への興味を失ったように視線を外して尋ねる。

「それで、私をご指名ってボスは何処かしら?」

「こちらです」

 レンカが先導して、セレビアと灰山がルミネの部屋に続く長い廊下を歩いていく。