ふいに足音が耳に届く。

(……二人? 食事じゃないわね)

 不審に思っていると、足音がセレビアの牢の前で止まった。

 眼球だけを動かして相手を確認すると、セレビアは口角を上げた。

「私に何か用かしら? 天使くん………いや、“堕天使”くん」

 嫌味たっぷりにセレビアは、訪れた二人のうちの一人、白矢クヲンに向けて告げた。

「居心地どうすっか? 魔法使いさん」

 セレビアの発言を否定することなくクヲンが返す。その表情は相変わらず不敵だ。

 傍らにいる灰山幸四郎は口に火の点いていない煙草をくわたまま、黙ってセレビアを見据えている。喋りは全てクヲンに任せて、自分は話す素振りは全く見せない。

「回りくどい世間話はいいわよ。用件は何?」

「……ボスからのご指名入りましたぁ〜。つーわけで、協力よろしく!」

 人懐こいウインクするクヲンだったが、セレビアはそれに惹かれることはなかった。

 それでも、小さく笑って腰を上げる。

「……いいわよ。行きましょうか」

「お、ずいぶんあっさり! もしかして、イケナイこと考えてる?」

「何言ってるの? これをはめられてる限り、魔法は使えないのよ?」

 そう言ってセレビアは、枷をわざとらしくクヲンに見せつける。

「確かに……そんじゃ、よろしく」

 クヲンは灰山に「セレビアをボスの所へ連れて行って」という意味で目配せすると、灰山は舌打ちし、渋々といった感じで、牢を開けた。

 IDカードを柵状前に備え付けられている端末に通すことによるロック解除方法である。

 セレビアは牢から出ると、向かい側の牢にいる人物に声を掛ける。

「お先にね、ヒーローくん」

 まるでもうここには戻ってこないようなセレビアの物言い。向かい側にいる「ヒーローくん」こと、緋上ジョーが涼しい顔をして返した。

「えぇ、お元気で。セレビアさん」

「何言ってんだ? お前ら」

 吐き捨てるように灰山が言うと、セレビアを連れ出していった。

 残ったクヲンが、ジョーの方へと振り向く。