そんな空兎をひとまず仙太が落ち着かせると、クヲンが続きを話し始めた。

「いやさ、やっぱ、“本”が近くにあった方が“神杯”の研究もしやすいからな。それに、俺は空兎の“奇跡”を叶えてやるって決めたからな」

 後半の一言でまた空兎の頬が紅潮する。仙太はそれを見ないように努めるが、どうしても視界に入ってしまう。

「でも……それだけの理由で転校って……」

 妙にムキになった口調で仙太がクヲンに問う。

「もちろん、表向きは父親の仕事の都合ってことになってる。ま、デタラメだけどな」

(デタラメなのかよ……)

 呆れ目になる仙太。
 一方、空兎はというと、「クヲンくんのお父さんってもしかしてゴッド?」と質問していたが、「企業秘密♪」の一言で断られていた。

「ま、つーわけだからよ、これからよろしくな!」

 片目を瞑って無邪気に挨拶するクヲンだったが、仙太は少し気まずそうに現状を話した。

「あのさ……わざわざ転校してきて、こんなこと言うのも悪いんだけど……“本”は今ないんだ」

 仙太のその言葉をきっかけに沈黙が訪れる。


 そして、数秒後───


「クヲン、マジショーック!」

 ガーン、と額を殴られたかのようにクヲンは仰向けに倒れる。

 そんなクヲンを気の毒に思ったか、仙太が経緯を説明する。

 それをクヲンは、仰向けのまま───嘲笑を隠しながら聞いていた。


 そんなクヲンの嘲笑に気付かず、仙太は図書室にあいた穴、なくなった“本”のことを説明し、それから“鍵”を狙われて、自分達が追われたことも話した。そして、ジョーが負傷し、行方がわからなくなったことも………

「なるほどね、つまり昨日はお前らにとっては“ハレの日”だったってことか」

 体を起こし、クヲンは二人にそう告げる。

「“ハレの日”?」

 おうむ返しに訊いたのは仙太。空兎も同じことが聞きたかったかのような顔をしている。

「ん? あぁ、俺の造語でな。前に話した……“ハレとケ”って覚えるか?」