「………わかったから、後でちゃんと歯を磨いてくれ」

「ウキュ♪」

 空兎の肩の上で、キィが楽しそうな鳴き声を上げた。


 賑やかな朝食が終わり、空兎は、仙太に言われた通り歯磨きを実行。その間に仙太は朝食の片付けをしている。

(プラス思考万歳……か)

 食器を洗いながら仙太は、先の空兎の言葉を反復していた。

 いかにも空兎らしい台詞だなと思いつつも、嫌いではない言葉だ。確かにその方が変に嫌な気分にならずにすむ。

 空兎が立ち直った理由と元気の源が、少しわかった気がした。

「空兎だったら、悩み事とかないかもしれないな……」

 苦笑しながら皿を洗い、それを食器乾燥機へと入れたところで、突如───


 ピーンポーン!


 玄関のインターホンが鳴り響き、仙太は思わず皿を落としそうになった。

(………誰?)

 仙太に緊張が走る。
 こんな朝早くに来客は珍しい。ひょっとしたら………という予感が過る。

「ふぁ〜〜い」

 歯ブラシを口に加えたまま警戒心ゼロで空兎が玄関へと近づく。仙太はすぐに駆け寄り、首根っこを掴まえて止めた。

 なるべく声を潜めて、耳元で囁く。

「待って空兎。いきなり出るのはちょっとヤバい……昨日の奴かもしれないから」

 仙太の言葉に空兎は察したのか、瞳を広げて、首を素早く縦に振った。

 空兎をその場に留まらせ、仙太がゆっくり、息を潜めて玄関に歩み寄る。その間にもう一度鳴ったインターホンに、二人は心臓が跳ね上がる思いがした。

 ぴったりと玄関に体を密着させて、覗き窓より来客が何者かを伺う。

「………あ」

 相手を確認した仙太が、思わず間抜けな声を出す。

 内鍵を開けて、戸を開ける。そこにいたのは銀髪に空兎や仙太と同い年くらいの───天使。

 白矢クヲンだった。

「おはよん♪」

 無垢なる笑顔が朝から輝いていた。