$


 二階へと上がった空兎は持っている鞄を部屋の端に放り投げた。その際に「ウキュ〜〜」というキィの悲鳴にも似た鳴き声が聞こえたところで、空兎はまだキィが鞄のマスコットとしてくくりつけられた状態だということを思い出した。

「ごめ〜ん、キィ〜!」

 慌てて鞄を拾い上げてキィの様子を見る。落下の衝撃で目を回したものの、すぐに立ち直って、笑った表情となった。

 相変わらず何を考えているかわからないが、この愛くるしさが、いつも空兎を和ませてくれる。

 空兎はキィの紐を解くと、掌に乗せ、それから自分はベッドに腰掛け、キィをベッドの上へと移動させた。

「ふぅ〜〜」

 バタンッ

 まだ、ジョーの服のままの空兎の身がベッドに沈む。その反動で、キィが大きく跳ねて、空兎のお腹に着地した。

 真っ白な天井を見つめながら、空兎はキィに向けて話し始めた。

「この感じ……昔、大好きだったヒーローが悪の怪人にボコボコやられて、生死がわからないまま次週に続かれた特撮を見た気分に似てるなぁ」

「ウキュ?」

 腹の上のキィが疑問顔で空兎の顔を覗き込む。

「アタシは泣きたいくらい……いや、泣いちゃったかも……とにかくショックでさ…でも、一晩寝たら結構、立ち直ってたんだよね。今もそれと結構、おんなじ気分なんだ………アタシ、冷たいのかな?」

「ウキュ〜〜」

「……多分だけどね、これって、アタシがまだジョーさんが無事だって、信じてるんだと思う。……根拠なんて、全然ないけどさ……アタシの大好きだったヒーロー達はどんなにやられても、次の週には必ず復活してたもん!だから……ジョーさん……だって……」

 だんだんと声が弱くなっていく空兎の横顔に、お腹からジャンプして着地したキィが全身を擦り付けてくる。

「ウキュキュキュ〜♪」

 まるで「大丈夫!そのままヒーローを信じていればいいよ!」と励ましてくれているかのようだ。

 空兎は、そんなキィに微笑みかけると、ベッドから勢いよく起き上がった。

「早く着替えなきゃ、せっちんに怒られるね!」

 勢いよく脱がれたジョーの上着がキィに覆い被さった。