弱気な発言に文句の一つでも言われるのを覚悟した仙太だったが、空兎の反応は意外なものだった。

「そっか……逆に安心した！」

　顔を上げた空兎の顔は、この部屋に来たとき以来の一番の笑顔になった。

　何故、空兎が安心したのか、仙太にはわからなかったが、彼女が笑顔になったことが純粋に嬉しかった。

　二人はそれぞれの鞄を持って、玄関を出た後、主のいない部屋に向けて一礼。

　それから、まだ日が昇り始めている早朝の道を駆けた。


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　危惧していた事態は起きず、二人は無事に自宅へと辿り着いた。

　卓袱台の上には沙恵美が用意してくれていた夕食が広告用紙とラップが掛けられた状態で置かれていた。

「あは！肉じゃがだ♪」

　昨夜のメインディッシュになる予定だったおかずを見て、空兎が目を輝かせる。

「とりあえず、これは朝御飯に回すとして、空兎は新しい制服に着替えてきなよ。僕はこれらを温めておくから」

「うん！」

　そう返事してすぐに、その場でブカブカの服の裾に手をかける。

「だから自分の部屋に行けよ！」

　半ばやると思っていた仙太は間髪入れずに注意した。空兎は「えへへ」と照れ笑いの後、二階の自分の部屋へと行った。

「……まったく」

　そう言いながらも仙太は、空兎が少し立ち直った様子に安堵した。もしかしたら無理してるかもしれないと心の隅の方で思ったが、落ち込んでいる空兎の姿ほど見ていて辛いものはない。

(なんだかんだで、いつもの空兎が安心するよな……)

　そう思いながら、仙太は肉じゃがの鍋を火にかけていく。

　弱火でコトコト煮込まれていく肉やジャガイモが、仙太の食欲を刺激した。