シャワーを浴び終わった空兎は、下着はそのままで、上着とズボンはジョーのものを着て出てきた。さすがにサイズが合わずブカブカだが、空兎は気にしている様子はない。

 空兎が服を着ている間、仙太はテレビからずっと目を離すわけにはいかなかった。

 何故なら仙太がわざわざキィを捕まえるついでに空兎が脱ぎ散らかした下着をバスルーム前に置いてきたにも関わらず、空兎がそれらを着たのはこの部屋に入ってきてからだったからだ。

(ワザとか?ワザとなのか空兎!)

 仙太の心の中の絶叫は、空兎には届かない。もし仙太の反射神経が鈍く、目を逸らすのが一瞬遅れていたら、一糸纏わぬその姿に鼻血でも噴き出したかもしれない。

 そんな仙太の気も知らない空兎は、テーブルを挟んで反対側に座る。顔に付着していた血は綺麗に洗い流されており、シャンプーの香りが心地よく部屋に広がっていく。

 それだけで仙太は少しホッとした。

 テレビでは相変わらず報道番組を映しているが、ジョーに関する事件は未だに報道されていない。

 沈黙が重苦しい空気に変える前に、仙太が口を開いた。

「母さん、出張でしばらく家に帰れないみたい」

「そうなんだ………大変だね、叔母さん」

 視線をテレビ画面に向けたまま空兎が返事をする。先程よりはいくらかハッキリとした声に、仙太はさらに安堵する。

「あ〜……なんか作ろうかなって思ったんだけど、よく考えたら冷蔵庫の中身も勝手にあれこれ使うのはさすがにマズイかなって思って……なんか出前でも頼もうかと思うんだけど……」

「うん……それがいいよ………」

「何か食べたいものある?」

 仙太に問われて空兎は、たっぷり間をおいてから返事をした。

「………ピザとか、どうかな?」

「えっと………チラシあるかな………」

 仙太は立ち上がって、ピザのチラシを探し始めた。その間、空兎はずっとテレビから目を離すことはなかった。テーブルの上にいるキィがその様をただじっと見つめていた。