その日、一日の授業が終わるまで空兎は、苛々とソワソワを繰り返していた。
 隣の席の仙太は、それを垣間見ながら、いつ教師に注意されて、空兎が逆上しないかと落ち着かない様子で一日を過ごしていた。

そして、何とかそれは仙太の杞憂で終わった一日。

 ホームルーム終了と同時に空兎は鞄を持って教室を飛び出し、その行動を予想していた仙太はそれを追いかけた。

 萵車の「廊下を走るな!」という怒鳴り声は、仙太の耳にしか届かなかったが、あえて聞こえないふりをして走り続けた。

「待ちなよ、空兎!」

 仙太が空兎に追い付き、肩を掴んで止めることができたのは正門を出て、彼女が立ち止まってキョロキョロしている時だった。

「なによ!」

 空兎が鋭い睨みを利かしながら仙太に振り向く。
 しかし、慣れている仙太がそれに臆することはない。

「行く宛はある……わけないよな?」

「あったりまえっす!」

「自信持って答えるなよ……」

 朝からの頭痛が芽を出してきた仙太だった。
 得体の知れない痛みに悩みながらも、冷静になって朝から起きたことを今一度整理してみる。

 突然、図書室にあいた大穴。
 失くなったのは、基本的に誰も見向きもしないが確かにあった“奇跡の起こし方”という本。
 これは確実に“神杯”に関係している事件である。

 今、自分たちで出来る範囲は限られているが、それでも仙太は知恵を絞った。

「ねぇ、せっちん。もしかしてセレビアさんかなぁ」

 眉を下げて不安そうな空兎の声。

「確かに……“本”にはセレビアさんのハットで封印ってものが掛けられていたけど……」

「それにクヲンくんも……セレビアさんには気をつけた方がいいって……ん~~!!」

 煙のようにモクモクと沸き上がるセレビアに対する疑惑を、空兎は頭を掻きむしってもみ消していく。
 栗色のサラサラヘアーは瞬く間にヨレヨレとなってしまった。

「落ち着きなって」

 やはり自分達だけでは力不足を感じる仙太。
 かといってクヲンは所在が掴めず、携帯電話も持ってないらしく連絡も取れない。
 一番の容疑者であるセレビアは、空兎が携帯番号を知っているが……。