図書室に突然開いた大穴というのは学校始まって以来の事件なので、どう対処すべきか教師達にも判断できず一限目の授業は全学年自習となった。

 空兎はその時間を生徒指導室で萵車のお説教に使われ、おまけである反省文用の原稿用紙を渡されてからようやく解放された。

「お疲れさん……」

 精も根も尽き果てた様子で机に突っ伏す空兎の背中を、仙太が撫でる。

「せっちん……アタシ、早退キボンヌ」

 枯れ果てた声が痛々しく仙太の耳に届く。

「無遅刻無欠席が君の一年の目標じゃなかったのかい?」

「あ~~、なんて厄介な目標を~~アタシのバカ~~~」

 顔を上げて嘆く空兎。
 かつての自分に悪態を吐きつつも、律儀にそれを守り通そうとする空兎に仙太は少し感心した。

 そして、ふと思った。

 もしかしたら自分はこういう空兎に惹かれているのではないかと。
 やることは無茶苦茶でも、根っこの部分は幼い子どものように純粋──。

(って、僕はまた何を考えてんだよ!)

 発作的にやってくる感情を振り払う仙太。
 その度に「それでいいのか?」と言う別の自分がいるのだが、仙太は──そう、素直になれない。

 誤魔化すように、また、思い出すかのように仙太は空兎に尋ねた。

「そういえば空兎、“本”がないって叫んでいたけど………」

 その瞬間、それまで息絶えた魚のような目をしていた空兎の目がカッと光を宿し、バンッと机を叩いたと同時に立ち上がった。

「そう、それ!」

 空兎の大声はクラス中を注目させるには充分な声量だった。