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「あれ? 停電?」

 一夜明けての朝、甲斐浜家を襲ったのは停電だった。
 不審に思った仙太が携帯電話でクラスメイトに連絡をとってみると、どうやら深夜頃、雷が原因で電線がやられて地域全体で停電が起こっているとの事らしい。

 現在、電力会社が必死で復旧作業を進めているが、時間はまだ掛かりそうとのことだ。
 雷と聞いて苦手な仙太は、少しゾッとしてしまったが、ともかくそのクラスメイトに礼を言い、電話を切った。

「う~ん……そうなると、この賞味期限ギリギリの牛乳は・・・」

 片手で携帯電話を折り畳みながら、もう片方の手にある2リットルの牛乳パックを睨む。

「止めておいた方が無難だな」

 答えが出るまでに数秒と要さなかった仙太は、迷うことなくそれを流し台の方へと持っていき、流そうとしたその時だ。

「おっはよー、せっちん! 今日も晴れ晴れだねっ!」

 昨夜のカレー騒動など一切気にしてないようなご機嫌全開な空兎が、横から捨てようとしていた牛乳を奪い取ってゴクゴクと豪快に飲み干していく。

「ぷはー、朝はやっぱ牛乳っしょ!」

 実に清々しい笑顔の空兎だが、仙太はなにより彼女のお腹が心配でしょうがない。

「まぁ、賞味期限は切れてなかったし、大丈夫か……」

「ん? 何か言った?」

「えと、戯言を一つね……」

 戯言という言葉の意味がわからず小首を傾げた空兎のパジャマ姿が、やけに仙太には魅力的に映ってしまった。

(こ、これが思春期ってやつなのか!?)

 今、空兎と目を合わせたらどうにかなってしまいそうな仙太は、とりあえず視線だけは外しておくことにした。

「そ、そういえば珍しく早いな……空兎が一人で起きてくるなんて今日は雨かな~」

「……アタシさっき晴れ晴れって言ったじゃん」

 二人の立場が逆転するのもまた珍しい。
 仙太の表情が時間と一緒に固まり、そして溜息を吐くと同時に再び動き出す。

「……朝御飯、ご希望のメニューは?」

「おまかせでっ♪」

 空になった牛乳パックを持っていない方の手で拳銃の形を作ってウィンクする空兎に、仙太は心臓を撃ち抜かれた気分になった。