クヲンが返すと、マリィは少し迷っているかのように、数秒時間を置いてから、再び口を開いた。

「人間を不幸にすることにしか出来ない悪魔は……幸せになっちゃいけませんか?」

 その声は、――若干震えていた。
 その質問にクヲンが無言を突き通していると、マリィはゆっくりと立ち上がり、そしてクヲンへと振り向いた。

「クヲンさんからこれを貰った時、凄く嬉しかったんです……涙が出ちゃうくらい、凄く………」

 胸にぶら下がる銀色の十字架をギュッと握り締めるマリィ。
 寒さからか、それとも───。

「こういうのって……幸せっていうんですよね?」

 手に入れた喜びを己の所業(つみ)で失ってしまうのではないかという恐怖からか、マリィの体は震えていた。

 それを聞いてクヲンは「何かと思えば……」と深く溜息をつき、マリィに歩み寄る。

「お前な、いい加減その人間中心の考え方やめろよ。確かにこれまで色んな人間不幸にしてきたかもしんないけどさ、これから変わっていきゃいいじゃん!」

 軽く聞こえるが、確かにこもってる熱。
 それは、クヲンの本心からの言葉だからだ。

「そうすりゃあさ、幸せになれるって」

 ごく自然な流れで笑顔になるクヲン。マリィもそれに誘われた。

「ありがとうございます……」

 しっとりとした声で礼を告げたマリィは、目を閉じると、少し背伸びをしてその唇を───

「んっ………!」

 目を丸くするクヲンの唇に重ね合わせた。
 一瞬──だけどそれは永遠にも感じられた時間。


 パァン!


 だが、それは一発の───渇いた銃声によって崩れ去った。

「マリィ!」

 皮肉なことに初めてクヲンが彼女の名前を呼んだ瞬間でもあった。
 目の前で倒れていくマリィの姿を見て、自然とクヲンの口から出たのだ。
 僅かに降り積もった雪の上にマリィの体は倒れ、鮮血が雪を溶かしていく。

 クヲンは、冬のせいで温かみがわからないマリィの上半身を起こしつつ、怒りの衝動に駆られるかのように銃声がした方向を睨んだ。