青空、ハレの日☆奇跡の条件(加筆修正中)

「アタシの叶えたい“奇跡”は・・・あると、思う・・・・・・かな?」

「・・・・・・どっちだよ?」

 珍しく歯切れの悪い空兎に仙太が突っ込むや否や、彼女は再び顔を真っ赤にした。

「い、いいでしょ! こういうのはね、なくても、ある! って答えた方が得なの! せっちんも覚えとくといいわ!」

 勢いよく捲くし立てる空兎に、仙太は呆れて返す言葉もない。
 そこへ、クヲンが「だったら・・・」と、サラダを食べ終えたフォークを置きながら告げ、空兎と目を合わせる。

「迷うことねーじゃん。俺はお前に協力するって言ってるんだからよ」

 ニカッと笑い、白く良い歯並びを見せるクヲン。

 “無垢なる天使”というフレーズが何より似合う。

 仙太の目には、そう映った。

そして一方の空兎は、先程から心臓が破裂しそうなくらい鼓動していた。

「…………」

 クヲンに見つめられて、すっかり顔を蒸気した空兎は視線を外して俯いてしまった。

「!」

 その瞬間を見てしまった仙太は、自分でも驚くほどにショックを受けた。

(……なんだよ・・・・・・その反応)

 やはり最近の空兎はどこかおかしい。
 今日クヲンがやって来てそれがはっきりした。

 空兎はクヲンに恋をしている。
 先程のクヲンのライバル宣言からも分かる通り、クヲンも空兎の事が好きなのだろう。

 つまり、めでたく二人は両想いというわけだ。

(なんだよ・・・・・・それ・・・)

 恐らくこの事に気付いたのは仙太だけだが、ライバル以前にもう決着がついたようなものだ。

(いや……僕と空兎はただの従兄妹。空兎が誰と付き合おうと僕には関係ない───)

 果たして本当にそう言い切れるのだろうか?

 仙太は自問するが自答できない。

 同い年の従兄妹。

 法律上は結婚できるとはいえ、親戚であるがゆえ持ち難いそれ以上の感情。

 けど────

(何を考えてるんだ……僕は)

 モヤモヤと芽生えてくる感情をかき消すかのように頭を振る仙太。

 俯く空兎と、それを無垢なる笑顔で見つめるクヲンは気付くことはなかったが、今まで目を回していたキィが復活して、最初に見たのがその姿だった。
「でもよ“奇跡”ってのは普通じゃありえないことを起こすから“奇跡”っていうんだぜ」

 「単なる願いじゃダメだ」と付け加えてクヲンは語り始めた。
 空兎は顔を上げ、仙太やキィもクヲンに視線を集める。
 仙太に至っては、今まで自分の世界にいたため少し話しに出遅れたが、追いつくのはすぐだった。

「例えば一度死んだ命の復活……。これは普通じゃありえねぇから可能だ。他にも不治の病を治すとか、100パーセント避けられない事故や災害。もっと大きく言えば戦争の回避も可能だ。
 つまり、1パーセントの希望すらない状況で初めて“奇跡”は起こせるってことだ」

 自信たっぷりに語るクヲンに、仙太はふとあの本に記述されていたことを思い出した。


『その宝はまだ誰も見つけていない。

 すなわち、まだこの世に奇跡は一度も起きたことがないのだ』


 あの時、仙太は嘘だと思ったが今なら不思議と信じられる。
 奇跡の生還といった類はもしかするとどこかに助かる要素があったのではないかと。

「クヲンって……すごいな」

 溜息を漏らすように声が出る。それは若干、諦めにも似た境地だった。

「ん? なんか言ったか?」

 仙太の呟きが微妙に届かなかったのか、クヲンが聞き返してきたが仙太は「なんでもないよ」と愛想笑いで誤魔化す。

(……本当にすごいよ、君は)

 “神杯”を研究して、その情報を惜しげもなく提供し、尚且つ“奇跡”でさえ手に入れば空兎に差し出すつもりなのだから。

 無邪気にして純粋。
 混じりっ気のない笑顔を振りまく、まさに天使だ。

「っで、それを踏まえてのお前の“奇跡”って奴を教えてくれよ」

 仙太がクヲンに意識を向けている間に、彼は空兎に尋ねていた。

 たっぷり溜めて数秒間。
 顔を上げて空兎は答えた。

「………教えない!」

 思い切りはにかんで出したそれに一瞬、時を止めてしまったが、クヲンの目にも、仙太の目にも魅力的に映った。

「ウキュ♪」

 “鍵”の役割を持つキィが卓袱台から空兎の右肩に飛び移り愛くるしく鳴く。それを見て空兎はさらに笑った。

(なんか……わかる気がする)

 内心で仙太は思った。
 無垢な空兎と無垢なクヲン。
 確かにお似合いかもしれない……と。

 カラン。

 不意に響いたのはサラダを食べ終わったクヲンのフォークだった。

「ふぅ~、食った食ったぁ。美味かったぜ、せっち。まっ、麺は短めだったけどな!」

 然り気なく気付いていたクヲンに、仙太はギクリとなるが、空兎だけがクヲンの言っている意味がわからず残りの面をチュルチュルと平らげていく。

 そこでいつもなら二杯目のおかわりを要求するところだが、今回は材料不足につき却下された。

 それから三人はゲームや雑談などで盛り上がりながら昼時を過ごしたが、クヲンは三時のおやつが来る前には「急用」ということで帰っていった。

「ねぇ、クヲンくんってさ、・・・彼女とかいるのかな?」

 クヲンを見送った玄関で、恥じらいながら仙太に尋ねる空兎。

「さぁ……」

 仙太にとっては聞きたくなかった質問だった。
 幸せそうな空兎の笑みが、仙太には複雑に映ったが、空兎の胸中は小さな幸せに満ちていた。


§


 時はさらに経って夕暮れ時───
 街を一望できる山の高枝に天使が一人、まるでソファのように枝に寄り掛かりながらそこから見える景色を眺めていた。

「なかなか……厄介なことになってるなぁ」

昼間の空兎や仙太の会話を思い起こして、クヲンは目を閉じる。

 最初に同時に感じたのは“罪悪感”。

「わりぃな………」

 ゆっくりと目を開け、呟くクヲン。
 五月終わりの風が銀色の髪をなびかせる。


 そして、クヲンはある一人の少女との出会いを思い出す───。

§


 それは去年の冬のことだった。
 クリスマス間近ということで、商店街では恒例のツリーといった装飾が施されりと、クリスマスムードを昂らせていた。

 そんなクリスマス一色のこの街でクヲンは、学校帰りにコンビニに寄り、そこからいつものように帰路についていた。

 ここまでは普段どおりの日常なのだったのだが、それが一変したのは、彼が気まぐれを起こしていつもとは違う裏通りを歩いていたときのことだ。

 一人の・・・・・・行き倒れの少女と出会った。

「……なんで?」

 あまりの唐突な出会いに、クヲンが反射的に漏れた疑問形だ。
 最初は何か落とし物かと思い、興味半分で近づいてみれば倒れている人間だった。

 夕方というこの時間帯、通学路であるこの裏通りは人通りが少なく、実際、今通っているのはクヲンただ一人。

(……死んでないよな?)

 身動ぎ一つしないところから死体を懸念するが、上半身を起こして確認してみると、とりあえず生きていることは分かった。

 彼女の腹の虫が鳴いたからだ。

(行き倒れ決定……)

 クヲンがうな垂れる中、少女の愛らしい口元が「むぅぅ」と苦しそうに唸る。

(……放っておくわけには、さすがにいかねぇよなぁ)

 自分と同じ年頃の少女。
 下手に放っておけば変質者などに狙われかねない。「面倒なことになったな、オイ」と頭を掻きながらクヲンは人道的に救助することを決めた。

 肩下まで伸びた髪も服もスカートも、タイツでさえ墨汁を落としたような黒に染められた少女、とりあえず空腹であることは先程の腹の音で判明しているので、行ったばかりのコンビニからパンを一つ取り出して少女の口元に持っていく。

「おい、食えるか?」

 クヲンの言葉に少女は微かに鼻をひくつかせたかと思うと、次の瞬間、

 パクっ、と小さく一口齧った。
そして、それを咀嚼し、飲み込んだ後、少女はキラキラと涙で潤んだ瞳をクヲンに見せて告げた。

「おいしぃです……」

「コッペパンだけどな……」

 その後も少しずつ減っていくコッペパンを持ちながらクヲンは、本当に美味しそうに食べるこの少女を可笑しく、そしてどこか面白く見つめていた。
 たっぷり時間をかけてコッペパン、ひとつを完食した少女がゆっくりと立ち上がり、

「ありがとうございました」

 と頭を深々と下げて、丁寧なお辞儀を見せた。
逆に恐縮して狼狽するクヲンだが、頭を下げている少女がそれに気づくはずもない。

「まぁ、なんで行き倒れてかは訊く気はないけど、次からは気をつけろよ」

「はい。あ、私、マリィっていいます」

「いや、名前、訊いてないし……」

 マリィと名乗ったこの少女にクヲンはペースを崩されながらも、これきりの出会いだと思い、足早にその場を立ち去ろうと歩を進める。

「じゃあな」

 背を向けて若干の早歩き。
 しかし、妙に感じる背中に突き刺さる視線を感じた。確認するまでもない。

 出会ったばかりの少女のものだ。

「って、おい!」

 マリィの所まで逆走したクヲンの第一声に、彼女は何のことかわからないといった風に小首を傾げた。

 その仕草が余計にクヲンの神経を逆撫でた。

「なにその「はい?」って態度は? いつまでも見送ってないでお前も早く帰れよ!」

「何処に帰ればいいのでしょう?」

「あるだろ?お前の家が!?」

「えっと・・・・・・何処に?」

「知らねぇよ!」

 ついに怒鳴りだしたクヲンだが、少女は相変わらずハテナマークを頭上に浮かべたままのような顔でクヲンを見つめている。

(アホらし……)

 こういうのを「のれんに腕押し」というのだろうか。
とにかく、ひとり息を切らし始めたクヲンは、だんだんと自分の中で沸騰した熱が冷めていくのがわかった。

(こいつ、家出か何かか?)

 それにしては荷物らしい荷物はない。完全に身一つだ。

(こういう場合、普通警察に届けるべきなんだけど、ちょっとここからじゃ距離あるよなぁ)

 携帯電話の普及により電話ボックスは近場にはなく、今のクヲンにはその携帯電話すらない。
 散々迷った挙げ句にクヲンが出した答えはやむを得ないものだった。

「俺んち来るか?」

 心の中で断ってくれと祈りつつ口に出したその言葉は、彼女の笑顔と共に打ち砕かれた。

「はい」

「マジで?」

 間髪入れずに出てしまったクヲンの率直な声だ。
 クヲンが人目を忍ぶように自宅であるアパートに帰ったのは初めてだった。

「独り暮らしされてるなんて偉いですねぇ」

 対してマリィの反応は実にマイペースなものだった。

 トイレとバスルームこそ別々だが、台所とセットの八畳ワンルーム。
 中央に長方形のテーブルと端に冷蔵庫と衣服箪笥がある他には何もない殺風景とした空間だ。従ってここにも電話はない。

「そうでもねぇけど。色々事情があってな」

 言いながらようやく落ち着ける場所に帰って来たクヲンは、テーブルの近くに腰を落とす。自分の定位置だ。

「まぁ、座れよ。座布団ないけど」

「ざぶとん?」

 「何ですか? それ」といった様子のマリィだったが、ひとまずクヲンに促されて彼の向かい側に座る。


 そして沈黙すること数分。


(間が持たねぇ!)

 クヲンが心の中で絶叫していることなぞ知る由もないマリィは、何もない殺風景なこの空間がさぞ珍しく見えるのか、来たときからずっとキョロキョロしている。

 とりあえずクヲンは咳払いをひとつして気持ちを落ち着けた。

「それで、お前、どこから来たの?」

 マリィはやっとクヲンに視線を合わせて一言、

「……わかりません」

 と答えた。思わず目を見開くこしか出来なくなるクヲン。

「……もしかして、記憶喪失ってやつ?」

 やっと出た言葉でクヲンがそう言うと、マリィはまたも小首を傾げた。

「う~~」

 クヲンは頭痛を覚えたかのようにこめかみを押さえながら黙考した。

(訳わかんねぇけど……。どのみち放り出すわけにもいかないよなぁ)

 一度助け舟を出しただけに途中で放り投げるのは後味悪い。
 かといって画期的な解決法がすぐに思いつくかというとそうではない。
 悩んでいるうちにクヲンは、テーブルに置いたコンビニの袋が目に付いた。

「あぁ、とりあえず夕飯・・・・・・。冷蔵庫に材料はないし、もう一度コンビニ行ってくるわ。お前の分の夕飯、買ってこなきゃいけねぇし」

 そう言って立ち上がると、マリィは「あ、大丈夫ですよ」と呼び止めた。

「マジすか?」

 本当に何者だろう、とまずます疑問が大きくなった。

「先程のコッペパンでお腹いっぱいになりましたから」

「マジすか?」

 本当に何者だろう、とまずます疑問が大きくなった。
 それでも一応、危惧はしたもののその日の夜の夕食時、クヲンが彼女の目の前で弁当を食べても彼女はニコニコとしているだけで一口も欲しがろうとしなかった。

(拒食体質か?)

 そうは見えない体型だがな、と思いつつ夜は更けていき、時計の針が9時を差す前頃になると、マリィはまるで昼間のような死体と見間違えそうな安らかな寝息をたて始めた。

(良い子は九時にはっ、てか……)

 内心で軽口を叩いて、なけなしの毛布をかけてやると、マリィの口から「コッペパン……」という寝言が聞こえてきた。

「なんつーか……イタイ娘だな」

 変な少女を助けたものだと、クヲンは苦笑した。
 でも、どこか放っておけなったのは事実だ。

(まぁ、明日になればなんとかなるだろう)

 学校の近くには警察署もある。そこで保護してもらえば解決だ。
 マリィも眠って、ようやく寛ぎのひとときを手に入れたクヲンだが、

「うわ、寒っ」

 突然来た冬の寒波に体を震わせた。残りの問題は、この夜をどう乗り越えるかだが、とりあえず熱いシャワーを浴びてから考えようと思い、バスルームへと向かった。

 そして、ひとしきり浴びたところでクヲンが出した答えは、ありったけの衣服を体に巻きつけて寒さを凌ぐという荒業だった。

 テーブルを境界線代わりにして衣服でグルグル巻きになったクヲンが横になる。さすがに毛布もどではないが、一晩くらいならば耐えられそうな暖かさだ。

 そして、クヲンは一度だけマリィの寝顔をテーブル越しに瞳に焼き付けながら、電気を消した。


§


 ジリリリ………。

 目覚まし時計のけたたましい音でクヲンの重々しい瞼は開かれる。
 それを止めるために手を伸ばすものの体が固い。

(やべぇ……。慣れない寝方するもんじゃないわ)

 己の体が衣服によってほとんど身動きがとれない状態だということを思い出して、クヲンは「ふんが~!」と絶叫を上げながらようやく目覚まし時計の近所迷惑な音を止めた。

 朝一番から体力を消耗したクヲンは、テーブル越しのマリィを確認するが、そこに彼女の姿はない。

 しかし、クヲンは驚くよりも先にテーブルに置かれている一枚のメモ用紙の存在に気づき、それを手に取り、

「……なんじゃこりゃ」

 と頭を一瞬抱えた。
 無理もない。
 恐らく「おせわになりました」と書かれているのだろうが、所々文字が逆になっていたり「お」が「を」になっていたりとなっている、見方によっては暗号めいたものなのだから。

 ともあれ、この妙ちくりんなメモから推測するに、あのマリィとかいう少女は自分の意思で出て行ったということなのだろうか?

(ご丁寧に毛布まで畳まれてんなぁ)

 綺麗に四つ折りに畳まれた毛布を見て、クヲンは溜息をついた。
 何か釈然としないが、いつまでも考えても仕方ないと思ったクヲンは、朝食を食べようと冷蔵庫を開けた。

「マジかよ・・・・・・」

 開けるなり目が点になるクヲン。昨日買っておいた六枚切りの食パンが一夜にして見事に全て食べられてしまっている。

 犯人は多分、マリィだ。


§


 結局、その日は朝からおかずだけで栄養を補充したものの、主食を失った体では何となく元気がでない。

 商店街は相変わらずのクリスマスムードが盛り上がっているが、クヲンは少々テンション低めで朝の通学路を歩いていた。

(さびぃぃい・・・・・・これで俺が凍死したらアイツのせいだ)

 白い息を吐きながら身を震わせつつ、しばらく歩いていると噂の「アイツ」に遭遇した。

「………なにやってんだ? アイツ」

 何処へ行くつもりなのかは知らないが、マリィは建物と建物の間に強引にいろうとしているところだった。

 珍妙なその姿に呆れつつ、クヲンは駆け寄り彼女の肩を叩いた。
 首だけ振り返ったマリィの頬は壁の煤で少し汚れていた。

「あ、お久しぶりです」

「いや、別れてから24時間経ってねぇし」

 マリィの笑顔のボケに、クヲンは冷めた態度で突っ込んだ。照れ笑いするマリィにクヲンはさらに

「冷蔵庫にあった食パン食ったのもお前か?」

 と問うと、

「はい、美味しかったです」

 と弁解もなくあっさりと答えた。
 あまりの正直さに、クヲンは返す言葉を失いつつも不思議と気分は清々しいものだった。
 同時に目の前のこの少女のことをもっと知りたい。
 放っておけないという世話焼きと好奇心がクヲンの心の中で湧いた。

「まぁ、それはいいや・・・・・・とにかく警察に行って話を───」

 そう言って手を差し伸べたクヲンの言葉を遮ってマリィは、

「色々とごちそうさまでした」

その狭い空間内で無理矢理向き直って深々とお辞儀をし、今度はクヲンに対して横に向いて何かコツを見つけたかのように素早い動きで壁の隙間を抜けていった。

「……やっぱ変な奴」

 マリィの姿はすっかりクヲンから消えていた。
 だが、この日の放課後、クヲンは再びマリィと出会う。
 またも、あの裏通りでマリィが行き倒れている状態で……。

「だから、なんでだよっ!」

 叫びつつも、先程コンビニでコッペパンを買っておいたのは、ある程度クヲン自身想定していたからかもしれない。

 いや、ひょっとすると何処かで期待していたからからかも。

(………まさかね)

 心の中で言い訳しつつ、昨日と同じコッペパン一個を時間かけて食べるマリィを苦笑しながらクヲンは見つめた。

 その後は昨日の繰り返し。
 一緒にクヲンのアパートに帰り、クヲンの夕食風景をマリィがニコニコ顔で見守り、9時前にマリィはコテンと眠り、クヲンはそんなマリィに毛布を掛けて、自分は衣服を巻いた。

 そして───。

「・・・・・・マジですかぁ」

 コンビニで買ったばかりの六枚切りの食パンはおそらくマリィの腹の中で、肝心のマリィは、昨日と同じく奇っ怪なメモと四つ折りに畳まれた毛布と共にトンズラしていた。

「……さて、本日も卵とベーコンにアスパラか~」

 溜息をつきながらそれらを探るが、生憎と卵しか見当たらず仕方ないのでそれをゆで卵にして食べた。

「朝食の最短時間記録更新だな……」

 毒づきながらも、クヲンの顔は笑っていた。

 そしてまた昨日と同じルートの通学路で行くのも、もしかしたら同じ道でマリィと会えると何となく期待していたからだ。

 そして、あの建物と建物の間へと辿り着く。駆け寄って覗いて見ると……。

(まぁ、いねぇ……よな)