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 クヲンは物陰と話していた。

「あいつら、極上の光のことを花火ってさ」

 それに物陰が返す。まるで鼻にかけた笑いだ。

「はん! 俺らが十数年間、まるで手掛かりないんだぞ? 当然、花火も試したさ」

「でも今度は違うかもしれない・・・・・・賭けてみる気ないかい?」

 クヲンがニヤリと笑う。物陰が何かを言い返そうとして止めた。
 向こうから空兎が来たのが見えたからである。

「トイレ終わった~?」

 その声に、クヲンは表情崩さず「終わったよ!」明るく応えて、その場をあっさりと離れていく。引き留めようにも、この場に空兎が来ないとも限らないので諦めた。

 だが、意外なことにクヲンの方から後ろ向きで話しかけてきた。

「心配しなくても大丈夫だよ、灰山さん。きっと、なんかなるって」

 その言葉の意味に、物陰に潜んでいた男、灰山は、怪訝な顔をしながら去り行くクヲンの背中を見送った。

 それが、どこかのヒーローの吐いた台詞を知らずに。


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「いやぁ悪ぃ。いきなりもよおしてよ」

 関口一番、下品に告げるクヲンに、「生理現象だもん仕方ないよ」と、にこやかにフォローする空兎。しかし、セレビアの表情は、あからさまに不機嫌という表現がぴったりだった。

「じゃあ、行きましょうか?」

 荷物を片付けたジョーの掛け声で一同は、さっそくセレビアの広げた絨毯へと乗り込んでいく。
 これを見て、クヲンが的を射たかのような顔になった。

「へぇー、これが魔法の絨毯って奴かぁ」

「そうだよ! えっへん!」

(自分の物じゃないのに・・・・・・)

 仙太は、そんな空兎に改めて呆れる中、隣のジョーが予め用意していた地図を広げていく。

「それじゃヒーローくん、道案内お願いできるかしら?」

「えぇ、もちろん」

 フワリと絨毯が舞い上がり、ジョーの道案内の示すままに進んでいく。

 初めての空の旅の感覚に、クヲンは最初テンションが上がりっぱなしだったが、すぐに慣れたのか、徐々に落ち着きを取り戻しつつあった。