「ねぇ、あの子何者?」

 仙太の予想通り、セレビアは、招き寄せた仙太に耳打ちするような形で尋ねてきた。それに倣って仙太も声を抑える。

「よくわからないんですけど、どうも遭難者みたいです」

 その答えではセレビアは納得しないことは、彼女の顔からでも仙太には理解できた。

 そう、彼は、明らかに怪しい。

 最初に出くわした時から仙太も思っていた事だ。
 若者が集まる繁華街にいそうな出で立ちをしていながら、森で遭難していたという彼。不審に思わない方がおかしい。

(昨日、妙な気配を感じたのは彼かもしれないわね)

 セレビアはそんなことを思いながら、魚を無我夢中で食べているクヲンを睨むようにして見つめていた。

 不穏な空気が漂うそんな中、

「さ~か~な~!!」

 という雄叫びと、ドタドタと、地響き起こさんばかりの勢いで空兎が駆けてきた。
そして焚き火の前で急ブレーキをかけて止まると、有無を言わさずに魚を焼いている串を手に取り、

「あ、空兎ちゃん、それはまだ………」

 焼けてませんよ、と言って制そうとしたジョーよりも早く、齧り付いてしまった。
 ホクホクではない、締まりのある身の歯応えを感じて空兎は、慌てて口から魚を離す。

「うわっ、生っ!? 腸炎ビブリオがぁぁぁっ!」

 主に生魚を介して感染する細菌を、吐き出すようにペッペッと唾を撒き散らす空兎。豆知識は立派だが行儀は大変悪い。

 そんな空兎が滑稽に見えたのか、クヲンがまたもや爆笑。ムッと空兎の眉間にシワが寄った。

「うっさい! つーか、あんたの事、色々教えなさい!」

 生焼け魚をクヲンに突きつけながら空兎が怒鳴ると、木の実のスライスを盛った皿を運んできたセレビアがそれに続いた。

「そうね、知りたいわ………。あなたのこと」

 口は微笑をかたどっているが、クヲンに向けた眼差しは一切笑っていなかった。

「あぁ、いいよ!」

 それでも真っ向からその眼差しに向き合ったクヲンの眼は笑っていた。

 まるで、楽しいゲームの対戦相手を見るかのように・・・・・・。