キャンプ場に戻ると、すでにジョーもセレビアは起床しており、各々、朝食の準備をしていた。
 
ジョーは、再び焚き火の番をしながら串に刺した魚を焼いていた。恐らく、今朝、湖で釣ったばかりの新鮮なものだろう。

 一方、セレビアはというと、まだ完全に目覚めきっていない眼を擦りながら、片手で名前もわからない果物のような実をナイフや包丁を使わず、見事な輪切りにしては、ジョーが持参したザルに入れていた。

 朝から不可思議な魔法を披露してくれている魔法使いである。

「あ、仙太君、おかえりなさい。散歩でも行ってたんですか?」

 仙太に気付いたジョーが振り返り、清々しい朝に相応しい笑みを浮かべた。が、その顔がすぐに疑問を抱いたものに変わる。隣にいるクヲンの存在がそうさせたのだ。

「あれ? そちらの方はどちら様ですか?」

 ジョーがそう尋ねると、寝ぼけ眼のセレビアもクヲンの存在に気付いて、どんよりした視線を向ける。

「えっと・・・・・・罠に引っ掛かっちゃった人です」

 子供騙しの罠に引っ掛かかったという、荒唐無稽な話なので仙太は話し辛かったが、事実なのだから仕方ない。

 しかしながら、話し終えた後、訪れた沈黙が、仙太には何処か気恥ずかしかった。

(いや、何で僕が気まずくならなきゃならないんだよ・・・・・・)

 トホホな気分になった仙太の一方で、その横で当人たるクヲンはジーッとある一点だけを見つめていた。

 それが何なのかは、彼の怪獣の咆哮如き腹の鳴きを聞けば容易に察することができる。

「えっと、とりあえず空腹のようですね。おひとつどうですか?」

 ジョーが良い焼き具合の魚を差し出すと、クヲンはそれに向かってダッシュ。すぐさまパクッと焼きたての魚に噛みついた。

 その様子が仙太には「ヒーローに餌付けされた犬」に見えて仕方なかった。

「やっぱ変な人だ・・・・・・」

 改めて思ったことを小さく呟いた仙太は、ふとセレビアが自分を手招いていることに気付いた。

 寝惚け顔だった彼女が、隙のない顔に変わっているのを見て、彼女の言わんとすることがおおよそ予想できた。