その視線に気付いて、クヲンは、笑い声を必死に抑えながら、二人に言った。

「お前ら面白いな! 漫画のカップルみたいだ!」

「いや・・・・・・」

 変な例えをしないでくれ、と言おうとした仙太の言葉は、空兎が割り込んだことで中断させられた。

「君、誰!?」

 バッと、人差し指をクヲンの顔を突かんばかりに突き出して、空兎は初めて見る顔に問う。
 クヲンは、いきなりの質問に目をパチクリしたが、すぐにニッと、空兎もよくやるような笑みを彼女に向けた。

「白矢クヲン。お前は?」

「あ、天羽 空兎・・・・・・」

 勢いでそう返したであろう、空兎の表情に、仙太は少し違和感を感じた。妙な照れがあるというのだろうか。ともかく、どことなくいつもと違う。

 気のせいだろうか、空兎の顔の赤みが増しているようにも見えた。

「くう? どんな字で書くんだ?」

「そ、空にウサギ・・・・・・」

「へぇ、可愛いじゃん!」

 その瞬間、空兎が目をまん丸く見開き、唇をギュッと引き締めるという仕草をした。仙太には見せたことのないハニカミだ。

(何だ?・・・・・・空兎のこの反応は?)

 仙太は、思わず今日は大雨が降るのではないか? と予感してしまう。まるで近所の公園で天然記念動物を見つけたような気分だ。

 その天然記念動物並に珍しい雰囲気の空兎は、ムズムズした様子でクヲンに尋ねた。

「つうかさ、君、一体何者? なんで、せっちんと一緒にいるの?」

 成り行きを知らない彼女としては当然の疑問だ。とりあえず仙太がそれに答えようとしたが、クスッと零したクヲンの笑いで遮られ、そのままクヲンのペースに奪われた。

「その辺の説明は後にしない? とりあえず君は服着た方が良いと思うけど?」

 確かに今の空兎はバスタオル一枚だけを巻いた姿だ。ゆっくりと話をするには男共の目のやり場に困る。

 空兎もそれを自覚したのか、脱兎の勢いで霧が漂う湖の方へと飛び込んでいった。そこにある岩にでも服が置いてあるのだろう。

「せっ、せっちん! その人と先にジョーさん達の所に戻っといて!」

 上ずった声の空兎に調子を狂わせながらも、仙太はクヲンをキャンプとしている場所まで案内した。