とはいえ、ただ待つのも退屈だったので、昨日仕掛けた「空兎印のチョコパイトラップ」の様子を見に行くことにした。

 仙太にしてみれば戯れ同然のものだと思っているので、成果は全然気にしていないのだが、それでも暇潰しの散歩にはなると考えたのだ。

 罠を仕掛けた箇所は3つ。
 1つは湖畔にある。寝場所にしていた所から歩いて1分程で着く所だ。

 鍋と木の枝で人の字を作るように立てて、その真ん中にチョコパイを置いている。
獲物がチョコパイに飛び付いたところで枝を引っ掛かけ、鍋が倒れて獲物を閉じ込めるという、知性がある獲物なら舐めているとしか思えない古典的トラップだ。

大きさからしてもリスやウサギといった小動物くらいしか捕らえられない代物である。
 ちなみにこの罠を作ったのは空兎だ。本人曰く「シンプル・イズ・ベストよ! これが本命以外の何物でもないわ!」とのことだ。

 そのベストたる罠を仙太は確認するなり、朝一番の溜息。

「やっぱりダメじゃん」

 仕掛けた時とまるで変わっていない鍋と木の枝がそこにあった。唯一変わっているとしたら、裸のまんま置かれているチョコパイの品質だろう。

(・・・・・・さすがに食わないよなぁ)

 普通なら生ゴミ行きのチョコパイを空兎なら「もったいないじゃん!」の一言で口に放り込みそうな、そんな変な予感がした。

 とりあえず、この一つ目の罠をそのままにして、仙太は次の罠へと向かう。

 残り二つは森の中に仕掛けてあり、どちらとも落とし穴だ。
獲物がチョコパイに釣られて寄ってきた瞬間、二メートル程掘った穴に落ちるという、これもまた単純な仕組みだ。

 とはいえ、いかに巧妙に、見た目で落とし穴とわからないように地表を作るのには工夫を凝らした。これはジョーと仙太の傑作だ。

(まぁ、そう簡単に引っ掛かっているわけないよなぁ)

 諦め半分、期待半分で一つ目の落とし穴の所へ行ってみる仙太。位置をよく覚えて、見極めていないと自分が引っ掛かりそうなので、仙太は自然と足取りが慎重になった。

 が、その足が途中から早足に変わる。遠目から見て、あるはずの所にチョコパイがなかったからだ。

(動物でも引っ掛かった?)