完璧な彼氏×おバカな彼女

代々木さんのもとに向かう途中、海のあの表情が忘れられずにもう一度聞いた。

「海、お前サッカーやらなくて本当にいいのか??」

「うん。芸能界に入った以上無理だよん。」

「社長に聞いてみたのか??」

「まだだよん。」

「まだ聞いてもないのに決めつけてんのか??」

「だって聞くまでもないよん。聞いた所で駄目って言われるのが目に見えてるんだから」

「お前にとってサッカーはそんなものなのか??」

「龍に何が分かるんだよ」

「何にも分かんねぇよ。んなもん分かりたくもねぇよ。その代わり、後悔だけはするなよ」

そう言うと海は、どこかへ行ってしまった。

俺は、代々木さんの所へ向かった。

「おっ龍。待ってたんだぞ!!って海は??涼介は二人来るって言ってたんだけどよ。」

「今日は予定の時間より遅くなってしまってすみませんでした。」

「人間誰でもあるって・・。気にすんなよ。」

「ありがとうございます。」

「もう一度聞くぞ。海は??」

「実はここへ向かう途中、喧嘩になってしまって・・・」

俺は、喧嘩した内容を代々木さん聞いてもらった。

代々木さんは、俺たちがデビューしてからずっと写真を撮り続けてくれるカメラマン。代々木さんは40代後半。少し頭がハゲている。けれど、服装はいつも赤やピンクといった明るい服ばかり着ている。

「お前と海が喧嘩するなんて、珍しいな。そんな事があったんだな。けど、お前の言った事は間違ってない。これから海がどうなるかだ。」









「さあ、やるか。海は明日にでも撮影と取材させるよう涼介に言っておいてくれないか??」

「分かりました。」

パシャパシャ。

「龍いいねぇ。ちょっと歩いてくれないか??」

代々木さんは仕事でも優しく接してくれる。

「今日はここまで。」

40分くらいで終わった。

「龍、じゃあ涼介に頼むぞ」

「分かりました。また、撮ってください。」

「ああ。中学生の時から撮ってるんだ。今更」

「じゃあ、さよなら」

「おお。じゃあな」

海の所へも行きたいが、まずは楽屋にいって涼介さんに代々木さんの伝言を伝えてから社長の所へ行くしかねえよな。

俺は、楽屋まで走った。

楽屋のドアを開けた。

「・・ハァ・ハッ・ハァ・・・」

ドアを開けると涼介さんがいた。

「龍そんなに息切らしてどうしたんだ??」

「実は・・・涼介さんに頼みがあるんです」

「何だ??言ってみろ??」

「海に部活をさせてあげられませんか??」

「無理だろうな」

「そこを何とか・・」

「何でそこまでこだわるんだ??」

「海のあんな楽しそうな表情初めて見たんです」

俺は何度も何度も頭を下げた。

すると、俺の隣に海も頭を下げた。













海は、顔を上げ、

「涼ちゃん。俺、サッカーしたいんだ。もう一度やってみたいんだ」

そして、頭を下げた。

そうすると、涼介さんが、

「分かった。そこまで言うんなら社長にかけあってやるよ」

「本当ですか??」

「ああ。俺が嘘を言う男に見えるか??」

「いえ。あの、明日海は撮影と取材をするそうです。」

「はぁ??海も一緒に行ったんだろ??」

俺は口を閉じた。すると、

「涼ちゃん。さっき龍と喧嘩したんだよん。だから・・」

「ったくお前らいい加減にしろよな」

「すみません」

「ごめんね。涼ちゃん」

そう、俺達は涼介さんに謝ると、

「仕方ねぇなぁ。まぁ、お前らしいけどな。海、お前は明日遅れて学校に行け!!」

涼介さんは笑いながらそう言ってくれた。

「分かったよん」

「じゃあ、今日は遅いから送る。玄関前に出ておけ!!車まわしておくから」

「涼介さん。今日はバイクで帰ります」

「分かった。気をつけるんだぞ」










~龍サイド~

俺と海は涼介さんに言われた通り玄関前に出てきた。

「海、良かったな」

「龍のおかげだよん。龍が言ってくれたから諦めたくなく、もう一回やってみたいなって思ってたんだ。ありがとう。」

「あっ涼介さんが来た」

黒いワゴン車が見えた。そして車窓から、

「龍、気をつけろよな。」

「大丈夫です。」

「じゃあ、海乗れよな」

「はいはい。龍~気をつけてね~」

そう言い、黒いワゴン車は発車した。
海も去ったことで、俺もスタジオに置きっぱなしのバイクをとりに行った。

俺は、中3の頃からバイクに憧れ、お袋と親父に頼んでバイクの練習を庭で行った。もちろん、バイクの先生に指導してもらい、16歳の3月くらいから練習した。
本当は、16歳の誕生日が終え、次の日くらいからバイクの指導をしてもらおうとしたら、社長に反対されたので・・・。見事17歳の誕生日に免許がとれた。ちなみに俺の誕生日は4月4日。凄くね??
バイクはほとんどスタジオか事務所に置きっぱなしにしてある。なぜなら、もう1台持ってからよ。

「じゃあ行くかー」

ヘルメットをつけ、バイクにまたがった。

いつものルートを通って帰っていると、公園から女の叫び声が聞こえたような感じがし公園に戻り、バイクのエンジンを切り耳を済ませた。ヘルメットを外しカバンにあった眼鏡をつけ、キャップを被った。

『嫌ぁぁぁぁぁぁ』

やっぱり聞こえた・・・。探すのに手間はかからなかった。3人の男と女がいた。男が女の上に馬乗りになり制服のボタンを外しているところだった。後の2人はニヤニヤしながら女と男を見ていた。女の顔は男が邪魔で見えなかった。俺は、馬乗りになった男の頬を殴った。すると男は尻餅ついた。別の男が口を開いた。

「お~い俺達、今お取り込み中なんですけど~」

そう言い、俺に殴りかかろうとしたが、俺はすばやく男の拳を掴み、腹を殴った。もう一人の男は後ろからかかってきたので、回し蹴りをした。2人はよろけていた。

俺は、女のところへ行きしゃがんだ。女は、震え泣いていたので抱きしめてやった。もう、男達が逃げたので帽子とキャップを外した。

「もう大丈夫だ。」

「ふっ・・・ぇ~ん。怖かったよぉ~。」

































背中をトントンと落ち着かせるように叩いた。

女は俺から離れ震える声で言った。

「・・・も・・う大丈夫です・・・」

そう言い、女は顔を上げた。その顔は、天宮さんだった。俺は、怒りがこみ上げ周りを見渡すと、男達はいなかった。

「天宮・・・・さ・・ん??」

「ほ・っ・ん・と・・にた・・っすけてくれて・あり・・っ・・がとうございました」

泣きながら言った。だいぶ落ち着いてきたみたいだった

「本当に大丈夫か??」

「大丈夫です」

そう言い、天宮さんは涙を拭い無理して笑った。

「送るから、俺と帰ろう??」

「迷惑かけたうえ送ってもらうなんて・・・。」

「大丈夫だから。バイクなんだけど大丈夫??」

「大丈夫です。」

「じゃあ帰ろっか??」

「うん」

俺は、エンジンをかけヘルメットを被りバイクにまたがった。天宮さんもまたがった。けど、天宮さんのヘルメットがないことを思い出し、俺は天宮さんにヘルメットを被せてやった。

「じゃあ俺の腰に掴まっててくれな。」

「うん」

そう言い、天宮さんは軽く俺の腰に手をまわした。けど、俺は強く掴まらせた。

「じゃあ行くよ」

「うん」

いつもはもっとスピードを出すけど、今日は後ろに天宮さんが乗っているので遅く走った。

ちょっと走ったところで天宮さんを襲った3人の男を見つけたので、エンジンを止めバイクから降り、俺は3人の男に向かって走った。















俺の突然の行動に天宮さんは驚いたのか

「どうしたの??」

天宮さんは首を傾げ、キョトンとしていた。耳をすますとさっきの男達が話していた。

『あ~あさっきの奴まぢヤバくね??』

『俺、骨折れたかと思ったよ』

俺は、2人の腕を掴み横にあった空き地まで引っ張った。なぜなら素顔を知られてしまえばスキャンダルになるかもしんねぇからな。

「折ってやろうか??希望を言ってみろよ」

「・・・やめてくださ~い」

一人の男は俺に泣きついてきた。けど、

バキーィィィィィィィ。

腹を蹴ってやった。気絶してしまった。もう1人の男に目を向けると、

「頼む。やめてくれ~。この通り!!」

そう言い土下座をした。天宮さんが涙目でこっちに来て、立ちはだかった。

「もぉやめて~!!死んじゃうよぉ~」

そう言い、俺の腰に腕を巻きつけてきた。

「・・天宮さん。怖がらせてごめんな」

そう言い天宮さんを抱きしめた。バイクに乗り、家の道のりを聞き天宮さんの家まで送った。天宮さんの家の手前でエンジンを切った。

「送ってくれてありがとう」

「どういたしまして。これからは気をつけるんだよ。じゃあね。天宮さん」

そう言い、バイクにまたがると、

「待って!!」

大声で叫び止められた。

「何??」

「どうして私の苗字知ってるの??」

しまった!!ここは答えるべきか・・・。

「内緒」

俺は人差し指を口にあてた。

「ずるいよぉ。もう会えないかもしれないんだよ」

天宮さんは急に泣きだした。


「じゃあ、いつでもここに連絡して」

俺はレシートにアドレスと携帯番号を書き、泣いている天宮さんに渡した。

「いつでも連絡していいの??メールしてもいいの??」

「いいよ」

天宮さんは泣き止んだ。

「じゃあね」

俺は、これ以上ここにいると理性が保てるか分からなかったので帰ることにした。



~鈴サイド~

男達が私にまたがり制服の上から胸などを触られた。
涙目になり震えていると・・・。

私にまたがっていた男の人が誰かに殴られ地面に倒れた。見張っていた2人もほとんど同時に倒れた。顔を上げると、そこには背の高い男の人がいた。顔は見えなかった。

怖くて震えたままだった。そんな時、男の人が包み込んでくれるように抱きしめてくれた。

「もう大丈夫だ。」

さっき込み上げてきた涙がついに溢れてしまった。

「ふっ・・・ぇ~ん。怖かったよぉ~。」

背中をトントンと叩いてくれた。

少ししてから男の人から離れた。

「・・・も・・う大丈夫です・・・」

なるべく心配かけないように言ったつもりだった。顔を上げると・・・。男の人は驚いたような顔をして言った。

『天宮・・・・さ・・ん??』

私は、自分の苗字を呼ばれてた事なんて気づかなかった。

「ほ・っ・ん・と・・にた・・っすけてくれて・あり・・っ・・がとうございました」

私は、助けてくれた人にお礼を言った。

「本当に大丈夫か??」

「大丈夫です」

私はなるべく心配掛けないように笑った。すると、

「送るから俺と帰ろう??」

「迷惑かけたうえ送ってもらうなんて・・・。」

「大丈夫だから。バイクなんだけど大丈夫??」

「大丈夫です。」

「じゃあ帰ろっか??」

「うん」

バイクは大きかった。ヘルメットが1つしかなくて、どうするんだろう??って思っていたら男の人は一度被っていたヘルメットを外し、私に被せてくれた。

「じゃあ俺の腰に掴まっててくれな。」

「うん」

男の人の腰に軽く手を回していたらギュっと密着するような感じになるほど腕を引っ張られた。






















「じゃあ行くよ」

「うん」

ゆっくりと走ってくれていたのが分かった。ちょっと走ったところで男の人はエンジンを止め、バイクから降りていった。私は、不思議に思い男の人の後を追った。けれど、男の人は早く行ってしまって見失ってしまった。しばらく探していると空き地のほうから低い声が聞こえ行ってみると・・・・。
そこには、さっき襲ってきた人達を助けてくれた人が私を襲ってきた人に殴ったり蹴ったりしていた。さすがに可哀想だったので、襲ってきた人達の前に立ちはだかった。すると、殴るのをやめてくれた。

「天宮さん怖がらせてごめんな」

ギュっと抱きしめてくれた。普通なら知らない男の人に抱きしめられても安心なんてしないんだろうけど・・・。
なぜか安心出来た。

「送ってくれてありがとう」

バイクで家まで送ってくれた。

「どういたしまして。これからは気をつけるんだよ。じゃあね。天宮さん」

そう言いバイクにまたがった。

この人私のこと知ってるの??

ずっと気づかなかったけど・・・。さっき私の苗字呼んだよね??

「待って!!」

大声で呼び止めた。これで終わりにしたくなかったから・・・。そして気になったから・・。

「何??」

振り向いてくれた。

「どうして私の苗字を知っているの??」

私が聞くと、困ったような顔して答えてくれず・・・・。少しの間経つと・・・・。

「内緒」

人差し指を口元にあてて言い、ヘルメットを被ろうとしていた。私は涙が堪えられず泣いてしまった。

「ずるいよぉ。もう会えないかもしれないんだよ」

すると、少ししてからレシートを渡された。

「じゃあ、いつでもここに連絡して」

中を見るとそこにはアドレスと電話番号が書かれていた。

「いつでも連絡していいの??メールしてもいいの??」

「いいよ。じゃあね」

嬉しくて涙が止まってしまいそうだった。バイクで帰ってしまった。

この時私は、まだ知らなかった。
あの人が二つの顔を持っているなんて・・・・・。