でも、オバサンはもちろん何も僕に求める事などないようだった。
オバサンに、ただただ感謝の気持ちをいっぱい込めてしっぽを振ると、いつものように急ぎ足で建物から出た。
ふと、僕は土手の上で傘を差して立っているヒトの影を見つけた。
「あれ? 何だかシロに似てるな? でも、まさかね……」
僕はそのヒトに見つからないように、こっそり通り過ぎようとした。
しかしそんな僕に気付いたそのヒトは、くるりと僕の方に体を向けた。
「あっ、クロ! 生きてたか!」
そこにいたのは、シロだった。
シロは僕のそばに駆け寄って来た。
そして、
「あぁ、こんなに濡れちゃって……。寒かったよなぁ、ごめんなぁ」
と言ってしゃがみ、差してきた自分の傘に僕を入れた。