「俺はすぐそこの赤い屋根の家で暮らしてる。名前は“ショコラ”って言うんだ」
そのネコは公園の向こう側に見える赤い屋根の家を鼻で指すと、更に自分の名前を僕に教えてくれた。
ショコラ。
そのネコはキャラメル色の短い毛をまとっていた。
鼻の辺りだけ白いので、言葉使いから受けるクールな印象に反にして、少し愛嬌がある。
その上に意外に洒落た名前だったので、僕は少しおかしくて、一瞬フフッと笑ってしまった。
僕のそんな表情を見て取ったショコラは、
「あっ、見たぞ! おまえ、今、笑っただろ!」
と、怒った様子で僕につめ寄った。
慌てた僕が、
「ごめんごめん! そんなつもりじゃないよ!」
と、何とも言い訳がましく謝ると、
「実は俺もさぁ、“ショコラ” は違うだろ、って思ってるんだよね。恥ずかしいったらないよ」
そのネコは、何とも冴えない顔でつぶやいた。
面白いネコだと思った。