「おまえ、誰だ?」

 そのネコが僕に尋ねてきた。

「僕は宗一郎という名前の……イヌだよ。昨日あっちの方から歩いて来たんだ」

 僕は北の方を鼻先で指しながら、そのネコに話した。

「何だ、新しい首輪をしてるじゃないか。迷子になったのか?」

 心配してくれるそのネコに、

「いや……家を出てきたんだ」

 僕は告白する。


「家出? 何かあったのか?」

 何かって……。

「――ちょっとね。家にいたくなくなっちゃったんだよ」

 わかる?

「そうだよなぁ。飼いイヌは飼いネコと違って自由がないからなぁ」

 ……わかるわけないか。



 勝手に的外れな納得をしているそのネコも、細いピンク色の首輪をしていた。


「これからどうするんだよ?」

「どうしよう?」

「何だい、頼りないな!俺に聞かれても困るんだけど?」


 ネコは呆れた顔で、僕にそう言った。