「宗ちゃん!」
ご主人の奥さんが、桜の木の下から僕を呼んだ。
「もう少ししたら桜の花が咲くわよ。宗ちゃん、今年はもう 何処にも行っちゃだめよ?」
ご主人の奥さんは、僕の鼻に人差し指をつけ、
「約束よ?」
と言った。
僕はその人差し指をペロペロとなめた。
今年は必ずここで桜の花を見よう。
でも――。
また家を抜け出して、ショコラにも会いに行こう。
そしてあの公園の桜の花の下で、ショコラに2歳の誕生日を祝ってもらおう。
僕はご主人の庭の木の間から首を出し、道の先に見える小川の土手を見つめた。
そこから繋がっている、僕のもうひとつの故郷。