僕は傷ついていた。

 “宗一郎なんか”という言葉が、耳から離れなかった。


 宗一郎なんか――。



 僕はとても悔しかった。

「何で“マリちゃんのママなんか”に……」


 僕はマリちゃんのママをよく知らない。

 でも、決して僕が憧れたり尊敬したりするようなヒトではなかった。


 そんなヒトに僕は見下されたんだ。



 ……だけど、誰も、傷ついた僕を助けに来てはくれなかった。


 僕はどんどん卑屈になっていった。

「みんなも僕の事を、そんな風に思っていたりするのかな?  ご主人やご主人の奥さんも、そんな風に思っているんだとしたら……」


 考えただけで哀しくなる。


 僕がいなくても笑い声の響く家。


 僕はこんなにみんなの事が好きなのに、

 僕がいない事に、誰も気付いてくれない。



 もういい。


 僕、この家を出よう……。