逃げた出した僕は、桜の木の後ろに身を隠した。

 とても、怖かったから。


 マリちゃんが、

「ごめんなさい、ママ」

と言って、とてもしょんぼりした様子で、家の中に入っていくのが見えた。



 家の中からは、

「マリ、よく来たねぇ」

と、ご主人の優しい声が聞こえた。





 僕は悪い事をすると、ご主人に叱られた。

 いつも僕が悪かったから、僕は謝った。

 でも、今、僕はどうして謝ったんだろう?



 僕が“イヌ”でごめんなさい?

 マリちゃんと遊んでごめんなさい?

 普段の行いが悪くてごめんなさい?


 ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい……



 そして、そのまま日が傾く時間になっても、僕は笑い声が響く家の中に入る事ができなかった。