…踏切が音を立てて下がり、電車が来るのを知らせる。
そうすると良明くんは日陰を出て振り返り、私に手を伸ばす。
一瞬迷ったけれど、良明くんの笑顔を見てその手に応えることにした。


「…夕方、冬馬さんのとこに行こ」


電車がホームに滑り込む。

夕方に、冬馬兄ちゃんと話す…。
まだ時間はある。だから今は何も考えずに過ごそう。
少し強く良明くんの手を握ると、良明くんはふんわりとした笑顔を見せた。


「大丈夫、俺が一緒に居る」


その言葉に私は支えられている。
…冬馬兄ちゃんと話す時、良明くんが傍に居てくれる。だから私は頷く。


同じテンポで揺れる電車。
乗客が少しずつ増えていき、街が近づいているのを感じる。

…夏はもう始まっていて、電車内は浮かれる学生たち、小さな子供たちがほとんどを占めている。
みんな楽しそうに笑っている中、私だけが無表情に近い顔で遠くを見つめていた。


「大丈夫だよ」


良明くんはもう一度言い、私を見て笑った。