緩やかな風に揺れる髪。額に浮かぶ汗を拭った後に良明くんは言う。


「あいつ、中学の時は地味な奴だったと思う。
高校デビューが上手くいったパターンだな、あれは」

「え、そうかな…?
あ、入試の時は今と違ったからそう思うの?」

「うん」


麻実ちゃんが地味な子だったなんて全く想像が出来ない。
今の麻実ちゃんしか知らない私に良明くんは笑う。


「入試の時、あいつ眼鏡かけてたんだよ。で、髪は三つ編み。
化粧なんてするように見えないし、ずっとオドオドしてた」


当時を思い出しているのか、懐かしそうに笑う。
その隣で私は、三つ編み眼鏡の麻実ちゃんを想像するけれど…今の印象が邪魔をする。


「…全然想像出来ない」

「だろうね。俺ですら、いまだに信じられないもん」


でも良明くんは、その地味な女の子が麻実ちゃんだって気付いたんだよね。
全然違うのに、なんでわかったんだろう?

その問いかけに答えるように良明くんは言葉を続ける。


「…三つ編みの女の子が入試会場になってた教室に入ってきた時、俺とぶつかっちゃったんだ。
持ち物が散らばっちゃって、その子は慌てて拾ってた」


…そんなことがあったんだ。
私は違う教室で試験だったから、その出来事は知らない。
音は聞いていたかもしれないけれど…覚えていない。


「俺もさ、“うわーやっちゃったー”って慌てて拾うわけ。
これから試験始まるのに動揺しまくり。周りの視線とかハンパないしさ。
で、女の子を見たら泣きそうな顔してんだよ。
だから…“ごめん”の他に言ったんだ」


過去の話。だけど次のセリフが気になる。
今の二人を見ていると、恋の始まり…にはなっていないんだろうけど、それを思わせるような展開に胸がドキドキとする。
良明くんは少し考えてそれから言った。