……。
数分歩き、海へと到着。
だけどビーチは人の山…ゆっくり出来そうに無い。

たくさん並ぶ海の家、その中の一つで働くことになるんだ…と思ったら、めまいがしてきた。


「私、夏の海って来たことなかったけど…こんなに混むんだね…」


予想を越えた人の数。海の家でのバイトは、本当に大変そうだ。


「んーこれはまだ空いてる方かな。
混んでる時はもっとギュウギュウだもん」

「え、そう、なんだ…」


良明くんの言葉を聞いてるだけなのに、ドッと疲れてしまう。
こんなにたくさん人が居るのに、もっともっとギュウギュウになる。そうなればきっと、仕事も忙しくなる。


(…今日来て良かったかも。覚悟が出来た)


やると決めたからにはやる。
たとえ、麻実ちゃんと上手く話せなくなっているとしても…。


「…街に戻ってカラオケでもしよっか。
コレ見てるだけで暑さ倍増だし、ゆっくり話せないし」

「そ、だね…」


人の多さに圧倒されてしまった私。それを気遣ってくれたのか、良明くんは笑う。


「俺さーここに毎年来るんだ。
だから慣れてるけど、初めてじゃあキツいよね」

「…ん、確かに…ちょっとビックリ」


もと来た道を同じように歩き、駅に着いたけれど次の電車が来るまで少し時間がある。
田舎の電車は30分に1本あれば良い方だ。
次の電車は20分後…日陰に入り暑さをしのぐ。


「…でも、あいつが毎年働いてたのは知らなかったなぁ」

「え?あ、麻実ちゃん?
確かに海の家、いっぱいあったもんねぇ…」


何も言ってなかったから、多分麻実ちゃんも良明くんには気付いていなかったと思う。


「良明くんと麻実ちゃんは、高校入ってからの友達?」


顔を合わせれば喧嘩ばかり。と言うか夫婦漫才のような…そんなやり取りを見ていると、高校よりも前から付き合いがあるように思う。


「高校からだよ。正確には高校の入試で知り合った。
あいつは覚えていないだろうけどね」


遠くを見つめるその顔は、微笑みを浮かべているように見えた。