ごくっと唾を飲んだ後、ゆっくりと口を開く。


「…放課後の教室でさ、窓の外を何気なく見たら…女が俺のこと見ながら落ちてった。
で、慌てて下を見たけど誰も居ない、何の形跡も無い。
近くに居た友達は見えてなかったみたいだから…多分俺だけに見えたんだよ」


その顔は真剣そのもので、多分本当の話なんだろう。
学校は幽霊が出る、って話はテレビとかでよく言われてるけれど…まさかうちの学校がその一つだったなんて…。

私が言いたかったことはそれとは別のことだけど、思わず聞き入ってしまった。


「で、美和ちゃんは何を見たの?」

「え、あ…ごめん…あの、幽霊の話じゃなくて」


真剣な顔つきがふっと和らぎ、ちょっとだけ残念そうに笑う。
それと同時に掴まれていた手が解放される。


「ごめん、勘違いしちゃったみたいだね。
で、どうしたの?俺で良ければ聞くよ」


優しい言葉。
だけど…冬馬兄ちゃんと麻実ちゃんが一緒に居たことを、良明くんに話しても良いのかどうか悩んでしまう。
良明くんと私は別れたばかりだし…私がさっき思ったように、良明くん自身ミキさんとのことを思い出してしまうかもしれない。

だけど、一人で抱えていくにはツラすぎる。


「…私、邪魔者なのかなぁって思ったの。
だから…この町を出て行こう!なんて考えてた」


何を見たかは伝えずに、笑顔でそう言った。
それを聞いた良明くんはまた少し考えて…それから笑う。


「じゃあ俺と一緒に行こう」

「え?あ…ちょっ…」


私の手を取り歩き出す良明くん。
切符を買って改札を抜け、そしてちょうどやって来た電車に乗る。


「…どこ行くの?」


混雑する電車の中、不安を感じながら良明くんを見る。


「着けばわかるよ」


にっこり笑う良明くん。
窮屈な車内で優しく私を支えてくれる体。ぬくもり。
…どこへ行くのかわからない不安を、ぬくもりが消してくれる。そんな気がした。


同じテンポで進み続ける電車。
良明くんに寄りかかるようにして、窓の外を静かに眺めた。