……。


『あれ、言ってなかったっけ?
毎日朝早いし、家からじゃ遠いから親戚の家に泊まるの』

「えー…聞いてないよー…」


慌てて家に帰り、麻実ちゃんに電話。
公園でのことはひとまず忘れておこう…。


『泊まり込みは無理?』

「んー…無理ってことは無いけど…ちょっとビックリしちゃって」


よくよく考えれば、去年の夏休み、麻実ちゃんとはほとんど会わなかった。
去年もずっと親戚の家に泊まって仕事してたんだろう。
たまの休みにわざわざ戻って私と会ってくれていたんだと考えると、申し訳ない気持ちでいっぱいになる。


『とりあえず必要なのは下着と歯ブラシ、化粧品くらいかな。
着替えは全部貸してくれるから。
あ、日焼け止めは絶対あった方がいいよーつけてても焼けるけど、無いよりは全然マシだから』

「あ、そう…なんだ」


服も全部貸してくれるなんて、優遇だなぁ…親戚のお家だからかな?
でも、何着か持って行った方が良いよね…。


『私は夏休み入ったらすぐ行くけど、美和は何日か後で大丈夫だからね。
その日、迎えに行くから』

「…ん、わかった」


予想と違った点が幾つもある。
準備するものもだいぶ違う。だけど、やるって決めたからにはしっかりやらなきゃ。
冬馬兄ちゃんへのプレゼント、買いたいもん。


『じゃあ、明日学校で詳しく話すね』

「うん。じゃあ、またね」


泊まり込みという知らなかった事実のおかげ…と言ったら変だけど、そのおかげで麻実ちゃんと普通に話すことが出来た。
そうじゃなかったら、ギクシャクしてたかもしれない。
学校でも、バイト先でも。


「…日曜日、買い物行かなきゃなぁ」


バイト前の出費は少し痛い。
だけど必要な物だから仕方ない。

日曜日は、一人で買い物に行こう。そう決めた。


――まさかその日曜日が、私たちの運命を大きく変える日だなんて思ってもいなかったし、今はまだ誰も気付いていなかった。




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