……。


私たちが働くことになっている海の家。中に入ってすぐ、優しい笑顔が迎えてくれる。


「麻実ちゃん、おかえり!」


この人は如月 隼人(キサラギ ハヤト)さん。
如月さんは旅館の経営をほとんど任されている、実質上トップの人間。
それでもまだ29歳、やり手だ。

「如月さんの指示に従えば必ず成功する」と従業員たちは口を揃えて言う。


「君が良明くんだね。よろしく。
今年は例年より暑いからさ、忙しくてねぇ…。
もう少し雇えればいいんだけど、それはそれでキツくなっちゃうからね…と、こんなこと言っても仕方ないか」


優しい笑顔を見せ、汗を拭う。
それから腕時計を見て言葉を続ける。


「俺はそろそろ戻ってお客様のお出迎えをしなきゃいけない。
大変だと思うけど、あとはよろしく頼むよ、麻実ちゃん」

「あ、はい。お疲れ様です」


如月さんは爽やかな笑顔を残し、手を振って行ってしまった。