「…“友達の元カレ”って説明した方が良かった?」
そんな風に言うと、良明は苦笑気味に笑い歩き出す。
「“友達の元カレ”ってことで思い出した。
美和ちゃん、ちょっとずつだけど思い出してきたみたいだね。
こっちに来る前、病院に寄ったらおばさんがそう言ってた」
「え、あ…そっか」
まだ知らなかった情報。
それを教えてくれた良明は本当に嬉しそうな顔をしている。
だから思う。良明は美和のこと本当に好きだったんだ…って。
「結構広い部屋だな。
でもさぁ、まさかお前と一緒?」
「え?あっ…」
そうだ。大切なことを忘れてた。
美和と一緒にバイトする予定だったから…同じ部屋で寝泊まりするつもりで部屋を借りたんだった。
「…ごめん、忘れてた。
他の部屋空いてないか聞いてくる」
部屋を出ようとしたその時。
良明に腕を掴まれた。
「いや、俺は別に平気。ほら、襖で仕切ればいいし。
お前はあっち、俺はこっちを使えば大丈夫だろ?」
「…まぁ、そうだけど」
一応…男と女。襖で仕切ったとしても、夏休みの間中一緒の部屋ってことになる。
「心配すんなって、襲ったりしないから。
つーかお前には興味ないから安心しろ」
「………」
…良明の言葉の意味、それはつまり、私を女として思ってない。ってことだよね。
「よし、決まり。んじゃさっさと仕事行こうぜ」
…結局私は何も言葉が返せなくて、黙ったまま良明に手を引かれ歩き出す。
襖一枚で仕切られた部屋。
良明は私のことをなんとも思っていない。
だけど襖一枚しかない部屋でひと夏を過ごす…一晩じゃなくてひと夏だ。
…それを良明はわかっているのだろうか?
(私の方が意識しちゃうかも)
良明のことは好きでも嫌いでも無い。
だけどやっぱり、男と女には変わりない。
高校2年生の夏、良明との夏が始まる。
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