次の日オウ兄が私を連れてきた場所は──駅を通り過ぎた所にある廃ビルだった。

入り口は汚いガラスの扉──この時はまだ《立入禁止》の札はない──。

「ここは鍵閉まってるからね、こっち」

そう言ってオウ兄は裏の通りに入る。
私もそれに着いていく。

「よく知ってるね」

「まぁ、人並みには」

オウ兄はそう言うと建物の脇の金属の扉の前に立った。

ノブを引くが、開かない。
錆特有の耳障りな音が少したつ。

「ちょっとごめんね」

私に少し下がるよう手を動かすと──

ドガアッ

──固く荒い音。

その勢いで、扉が開く。

「うわぁ」

「荒療治」

オウ兄は目を細めて、くつくつと笑いながら言った。

「いつもはもう少し開きやすいよ?」

「いつもって」

オウ兄はこんなところに頻繁に通っているのだろうか。

「まぁ、二週間に一度とかそんなもん」

「あー…以外と普通ですね」

そう?とオウ兄は開いた扉を抑え、私に先に入るよう促す。

紳士的な。
それがオウ兄に似合っていて、ドキリと心臓が跳ねた。

「普通っていう感覚、人によって違うと思うよ」