「あ、そーいやお前の名前なんて言うんだ?」


その言葉を聞いた少年は可哀そうなほど肩を落として「ミランです…」と呟いた。そして「ルチェル様の部下なんですけど…」と。


最後の呟きを聞いてもルチェルは罪悪感の欠片も感じず、さらにとどめの一言を刺した。


「ミラン…?いたかそんなん?」


「うぅ…もういいです…。それより!!ルチェル様、今から陛下がいらっしゃる城へとお急ぎください」


先ほどの悲しみは何処へ。


「…やはりな、まっそろそろだと思っていたがな…ちょっくら行ってくるか。サンキューな、ミカン」


「え、え?いえっ、私は___」


ミランがうろたえているのを放ったまま、ルチェルは右手を地面にかざして呪文を唱えた。


「~~~」


ブワァっと周囲の風が舞い上がると同時にルチェルの身体が光り、徐々に薄れてきた。そして数秒後には何事も無かったかのように柔らかい風が吹いた。


「さすが、ルチェル様…って違います!!僕の名前は、ミランですーっいい加減覚えてください、将軍!!」


少年の絶叫が木霊した。






ニヤリと口角を上げて笑う。周りから見ると、相当意地悪そうな顔をしているだろう。


この俺がそう何度も人の名前を間違える訳なかろう。


ふわっと城壁の通路に降り立った。わざわざ人気が少ない所を選んだため驚かれることも無かった。いくら魔法が常識なこの世界でも高度な技は非常に珍しらがれる。しかし本人は見せびらかすつもりもないが、秘密にしているわけでもない。見たければ勝手にどうぞとオープンな性格なのだ。それでもわざわざ人気が少ない所を選んだのにはちゃんとした理由があった。


上将軍5人には陛下から特別に城が与えられる。そこは陛下がいる城と比べるとやはり小さめだが、城壁も高く防御力はなかなかのものである。そして上将軍はそこの城主を務め政務などに励むのだ。普段はルチェルも自分の城にいるため、めったにこの城には顔を出さない。そのためあまり目立ちたくないのだ。