オタクちゃんは今日もマンガを読んでいる。

今日はワンピース

昨日はナルト

一昨日は……のだめだったっけ?

とにかく毎日ありとあらゆるマンガを読んでいる。



「あ、それ知ってる~」という物から「なにそれ、聞いたことないんだけど」みたいな物まで読んでいる。


(というよりむしろ、知らないマンガの方が多いんだけどな。

ていうか、俺の知ってるマンガなんか、ジャンプかマガジンに載ってるマンガくらいだっつーの)


授業の合間とか、昼休みの残った時間とかにぺらぺらって、オタクちゃんは毎日毎日飽きもせずマンガを読みふけっている。



…なんでそんなこと俺が知ってるかって?



そりゃあ俺の斜め右前、視界に入ってくる所がこのオタクちゃんの席なんだからしょーがねーだろっ!



つーか、俺だけじゃなくこいつがマンガ読んでることくらいみんな知ってるっての!!
ともかくだ。

このオタクちゃんの動向は、嫌でも目に入ってくるんだからしょうがない。

晴れの日も雨の日も、雷が鳴ってクラスの女子どもがキャーキャー騒いでてもだ。


…でもさすがに授業中はマンガを読んでたりはしないんだけどな。

意外とマジメっつうか…

オタクだからマジメなのか?

…まあどうでもいいんだけど、オタクちゃんのことなんて!!



「リョウ君なに百面相してるの? 悩みぃ? だったらアタシ、話聞くよぉ」

「あ…、吉山。 うーん…まあちょっとなー、部活でなー」


なんちゃって誤魔化してみる俺。

吉山ってちょっと苦手なんだよなあ、ちょっとなれなれしくって、べたって女の子らしさアピールっての?してくる。

顔は大して可愛くないけど、スカート短くて、胸がデカイ。

健康的な16歳男子高生なんか、顔より先に胸に目が行くから、女子のいないところでけっこう話のネタにされてる。

やりてぇーとか、揉みてぇーとか。

吉山はボディタッチも多いし、多分そーゆーのわかってやってる。

クラスメイトのヒロキとケンは、どっちが先に吉山とやれるかって話して盛り上がってる。

くっだらねぇ。


「部活? 先輩とか? 運動系って厳しいんでしょぉ? それなのにリョウ君すごいなぁ、アタシ、ソンケイしちゃうょお」

「やー…それほどでもねーし…。 ってか、俺そろそろ部活行かねーと、じゃーな!」

「あーん、またねぇ」


甘ったるい声を出すんじゃねえ。

つーか、ボタン2つもあけてんじゃねーよ、見えてんだよ、透けてんだよ。

ああー、もう、本当に吉山は苦手だ。

ヒロキとケンは、「俺たちより先に、リョウが吉山食えそう」なんて言っていたけど、


じょおーーーーっだんじゃねぇ。


俺の好みはあんな吉山みたいな女なんかじゃねえ。



俺は!




小さくて大人しくて清楚で、可愛い子が好きなんだ!!!
ガラッ


勢いよく教室のドアを開けて、走り出す。

別に急いでるわけじゃなかったんだけど、頭に血が上ってる時ってなんでだか身体が勝手に走り出す。

廊下を走ってはいけません。なんていう張り紙が目に入ったけど、気にしないまま階段を駆け下り、昇降口へ向かう曲がり角をトップスピードのまま、カーブした。


した、つもりだった。
ドンッ

ドサッ


「きゃあっ」


あ、やっべ。

誰かとぶつかった。

なんてぶつかり合って、転んでる女の子を、くらくらする頭で確認する。

やっばい、やばい。

「ご、ごめん!!」

慌てて立ち上がって、転んだ彼女に手を差し伸べる。

差し伸べながら、俺は目をひん剥く。



なんて、なんて、なんて!

なんて可愛い子なんだろう!!