「あ、いらっしゃい。」


資料室のドアを開けると、毎日見飽きた幸田の姿がそこにあった。
幸田はニコニコ笑って、メロンパンを俺に差し出した。


「前払いです」


なんで、メロンパンだって分かったんだ?
マサキか?…いや、ここに来るまで、幸田に電話してるとこを見てないし、メールだってしていない筈。


「なんとなく、木本くんはメロンパン好きだと思ったんです。」


そして、パンに釣られて来た事も、分かってる訳だな。
俺はなんだかこの二人が苦手みたいだ。


「では、桜井くんに木本くん。このしおりを順番づつ並べて、ホチキスで止めて下さい。」


三人で間に合うのか分からない量。
二人はのん気に、ゆっくりと、止めていく。


「今日中に終わらなくてもいいですよ。あと一週間以内に出来たらいいですから。」


考えてる事もお見通しか。
…て、ゆうか、一週間ずっとやんのか、コレ?


「そうだ、桜井くん。さっきの続き、教えて下さい。」


幸田が目を輝かせながら、マサキを見る。


「いいですよ。…勇は初めて聞くと思いますから、始めからでいいですか?」


幸田は頷く。…なんだ?何の話だ?
俺は眉間にシワを寄せながら、二人を交互に見た。


「クリスマスパーティの豆知識だよ。」


マサキが微笑む。
…あ、そうか。マサキは理事長の孫だったんだっけな。


「豆知識って…なんかあんのか?」


パチン、とホチキスの音が鳴り、またパチン、と音がする。


「うちのじいちゃんがね、銅像買ったんだ。」


トントン、と紙を揃える音が鳴る。
…銅像?あの、小学校によくある、本読んでるやつの事か?


「その銅像、“天使のキス”っていうんだ」


天使のキス…そりゃ、また…。


「ロマンティックな名前だな。」


女子とかが食い付きそうなネタだと思ったけど、幸田はそういう話が好きなのだろうか。
瞳を輝かせて聞いてるように見える。